気体
ふわふわと、体をとりまくそれを
何度押しのけても、あっちからこっちから
ある誰かが言った
それがあるうちは苦しいけど、ないよりはとても幸せなことなのだと
別のある誰かが言った
時にそれは自分の意思を越えて、だからこそ違う形になれるんだと
まだそれがなんのことなのかわからない
いつの間にか曇り空に捉われて、足場もわからないほどのそれが体中を覆っている
時に柔らかく首を絞めたかとおもえば、口の中に入り込んだそれはやがて心臓までへと到達して、さんざかき乱した夜のあと、朝起きた時にはもうどこかうつろう
それの正体が何なのかは、それをどう受け取るのかで形が変わっていくのだろう
その目にはどう見える?
邪魔だと思うかもしれない、苦しいと思うことも多いだろう
喜び跳ね上がって背中を後を押すこともあるけどその時は転ばないように
歓迎して受け入れればそれは大いに力になるだろうけど、だからといって足場を見失うほどは抱えてはいけない
熱はあるけど質量はないし、物理的でもない感情的ななにか
一歩踏み出せば足元にはふわふわとしたものだけで、その先の道を踏み外さずに進んでいくことはとても難しい
引き返したい思いに駆られ、後ろを振りかえることだって何度もあるはずだ
苦しくなったら休めばいい、気付かないふりをしたらいい
だってそれは単なる気体
目に映らない、指に触れることもない、それ自体に感情もない
ただ足が重い時には少しばかりの推進力をくれる、そんな便利なやつだ
さて、その目にはどう映る?