青空賛歌 能天気甘蕉
小石も止まらぬ急勾配の下り坂のてっぺんで、わたしは広く明るかった。
先の尖った楕円の彼は青々とした出で立ちで、キザに空を滑っている。
どうだいとんぼがえりだ、きみにはとうていできないだろう、ひくいところでみていることしかできないきみにはまねできない、ぼくがうらやましいだろう、くやしかったらとんでみろ。
違うよわたしは悔しくない。羨ましいとも思わない。君は自分を鳥か蝶かと間違ってないかい。
君は自由でもなければ空を飛んでいるわけでもないんだよ、わたしはそれに気付いていない君のことがただ哀しいだけなんだ。
彼は既に無機質な灰色の壁に捉まり、どんな言葉をも飲み込んだ真一文字の唇を必死に震わせている。
もう一度飛びたいのかい。
わたしがそう訪ねたのなら、彼はかすかに体を揺らし請うたのだ。
よいよ、もう一度だけ。
そっと救いあげると足早に礼も言わず風の中へと帰ってゆく。
去り際にひとつくるんと回って、それが礼のつもりだろうかまたはわたしに見せ付けているのか彼は答えずに去っていった。
哀しいと言ったけれど訂正するよ、君はとても格好がいい。
望むのなら風よ、もう少し強く高く吹き上げてくれないか、いま少しだけ彼をわたしの場所にいさせてあげてほしいのだ。
ともすれば路端に群がる有像の砂が舞い上がった。
無像の風が先に立ち、彼の後をこのまま追えば瞬く間にも捉えるだろう。
見上げればやがてまた出会うこともあるのだろうか。
ふと足で止まった小石を見下ろすと急勾配のてっぺんの、一歩下ったところにわたしはあった。
見上げれば空を眩しく手を傘にしても遠かった。
もう高いところにはないと気付いてみてもなんのことはないものだ。
わたしにみえる低いところはそれでも広く明るいのだから。
青空賛歌と集め題して、その第一詩です。
書いては消して、思いついては破棄してを延々と繰り返しているため、次作がいつになるのかは未定です。
最後の一文手前まで書いてあっても、最後の一文が納得いかないと全て破棄してしまうため物凄く時間がかかることもあります。
読んでくださる方がいれば申し訳ありませんが、ふと目に付いた時にでもお読みいただけると幸いです。