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心と科学  作者: 酒井順
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第9話 不思議な「話」

 以前、この文章群のどこかの「話」で不思議な「話」のことを書いたと記憶している。どの「話」だったのか覚えていないが、書いたのは確かのはずだ。最近、富に記憶力が低下していると自覚している。幼い頃から「忘れ物の天才児」と呼ばれたが、覚えておく力=記憶力の低さは生来のものであったと思う。


 この「話」では不思議な「話」の内容を現在の文章力でリライトしたいと思う。僕自身はさほど魅力のある内容だとは思えないので、作品の中のその「話」に創発的現象により魔が宿った結果ではないかと考えた。しかし、そうではない可能性が1つ見えた。誰かが何処かでその「話」にリンクを貼っているのだ。そう考えればまず納得が行く。何故かはわからない。誰かもわからず、何処かもわからないのだから当然である。


 さて、その「話」は「脳とコンピュータの関連性について」書かれたものである。とは言え、ただ1つの疑問を問いかけたものでもある。それは「脳は共通ルーチンをどのように処理しているのか?」だった。


 コンピュータソフトは大概いくつかのプログラム記述言語によって記述される。記述されたプログラムはソースと呼ばれる。そのソースは基本的にCPU独自のマシン語に訳され、ハードディスクに記憶される。プログラムを実行するとき、マシン語はハードディスからメモリに転写される。CPUはメモリをなぞりながらプログラムを実行する。


 ソースを記述するときに同じソースとなるプログラムの記述を一纏めにして、共通ルーチンとして扱うことがある。そして、ソースを大きく分けるとプログラムコードとデータになる。


 コンピュータでプログラムを実行するときに問題になるのは、次のケースである。

・複数のプロセスが動いて、同じデータ領域にアクセスする時、他のプロセスのデータを変化させてしまう。

 日常に例えてみる。1軒の家に複数の人が住んでいるとする。Aさんは昨日買ったソーセージを冷蔵庫にしまっておいた。BくんはそのソーセージをAさんの断りもなく食べてしまった。Aさんはソーセージを食べようと冷蔵庫を探したが無い。プロセスとはAさんとBくんがとった行動であり、データとはソーセージのことである。この現場に立ち会った人は悲しい出来事を目にするだろう。例えソーセージが半分だけ残されていても同じかもしれない。


 この悲劇を防ぐために、コンピュータではいくつかの技法を用いて回避する。脳ではどのようにして回避しているのだろうか?というのが問いかけだった。


 脳では1000億個ものニューロンが独立して動いているとされる。つまり、1軒の家で1000億もの人がソーセージの奪い合いをしているようなものだ。


 脳の可塑性が証明されたことで、いくつかの可能性が思い浮かぶが、それを確かめる術もないし、この「話」の目的でもない。


 もしかすると僕は「問いかけ人」なのかもしれない。誰に問いかけているかといえば、それは自分自身にだ。このように自分自身で頻繁に問答を繰り返すときは、精神状態が良好なときだ。


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