第12話 脳科学への疑問
脳が描く図形のことを再確認しておきたい。脳を科学するとき、脳は複雑な図形におきかえられるのだと考える。脳はニューロンとそれを繋ぐシナプスにより形成されている。これを数学の一分野であるグラフ理論に例えると、ニューロンはノード(点)となり、シナプスはエッジ(辺)となる。
シナプスは基本的にニューロンからニューロンへ情報を伝えるか伝えないかのON・OFFの機能しかもたないとされる。すると、脳は古典的なコンピュータであるリレー方式を採用していると考えられる。それでも脳は1000億個ものニューロンを有するのであるから、相当の情報量を処理できるのであろう。
疑問はここから始まる。ニューロンは平均して2000本以上の入力シナプスを持つとされる。これに対し出力シナプスは基本的に1本だけのようである。
ここからはニューロンをノード、シナプスをエッジとして記述していきたい。そして簡単のために痛覚についてのみ触れたい。五感の中に触覚があり、痛覚はこの感覚に属しているものと思う。厳密にいうと触覚と痛覚は異なるようであるが、いずれにしても痛覚(痛いと感じる感覚)は五感であると思う。
さらに簡単のために左手の小指を針で刺したとする。このとき小指の痛点と呼ばれる受容器(おそらく細胞の1つであろうと思う)を刺さなければ「痛い」と感じないそうである。そして、その痛点を針で刺してしまった。このとき「痛い」とは感じることができない。痛点から電気信号を使い神経を通して脳に情報が伝えられる。脳が情報を処理してはじめて「痛い」と感じるのである。
このときどのような情報が脳に伝えられるのであろうか。僕は小指から出る血をみて、さらに「痛い」と感じるのであるが、この副次的な「痛い」は除外したいと思う。純粋に痛点を通してのみの「痛い」を考えたい。
痛い、どのくらい痛いか、どこが痛いかなどの情報が脳に伝わり、複数の入力情報が1つのノードに与えられたとする。ノードの機能はONかOFFかを出力するだけである。1つ目の疑問は、どのようにしてONとOFFだけで左手の小指が「痛い」と感じることができるのだろうか?ということである。2つ目の疑問は、複数の情報からどのようにしてONかOFFかを判断しているのだろうか?ということである。
いずれにしても入力情報が与えられるのは、1つのノードだけではなく複数のノードへと伝わることが予想される。入力情報を与えられたノードはそれを起点とした神経回路へと情報を伝達し、痛い?という回路やどこ?という回路が判断し、合算した結果が「左手の小指が痛いとなるのだと思う。このとき個々の回路は結論を出さない。合算した結果だけが結論を出す。
これは創発的現象に繋がらないだろうか、共有ルーチンに繋がらないだろうか。これは疑問ではなく、命題として残しておきたい。また、このような分散処理を行わないとすれば、痛点専用の処理回路が存在することになる。するとその回路は何個のノードを必要とするのだろうか。プログラムを組むことを考えれば、あまり数えたくない数字が出ると予測する。何故ならば、左手の小指はどこ?から処理しなければならないからである。結論として1つ目と2つ目の疑問はなんとか解決できると思う。
3つ目の疑問が少し深刻である。1つのノードが複数の入力を持ち、1つの出力を持つとき、適当なグラフを僕の脳で描くことができない。どうしても、そのようなグラフで脳の機能を満足させることはできない。どうしてもわからないからこれも命題の1つにしておきたい。
3つ目の命題を解決する方法はある。しかし、それはシナプスだけではできないのだ。受容体による情報伝達を考えなければならない。
上述のことより遥かに大きな問題がある。それは僕に与えられる情報は、10年くらい前のものなのだ。最先端の情報を得ることはできない。得るためには大学生や大学院生、それ以上の立場である必要がある。僕が、そのような立場になれたとしても、議論や軋轢で精神が崩壊してしまうだろう。僕はささやかに考えたいだけなのだ。




