依頼
「……で、あんたは俺に何をして欲しいんだ、婆さん」
格子の嵌められた窓から見える灰色の空を背景に、ジーンは粗雑な口調を投げ掛けた。
「長いこと生きてきたが、私を婆さんと呼ぶ男はお前くらいだよ、ジーン」
「……俺はあんたのその話の長い所が嫌いだ」
「我慢せぇ。老人の話は長いのが相場と決まっておる」
しかしシルイヤはこの短気な若者に慈悲をかけ、さっさと本題に入ることにした。
「のぅ、ジーン。お前、昨日治安部隊を首になったそうじゃな」
「うっせぇよ」
「全く、荒くれ者だらけと名高い治安部隊ですら勤めれんとは呆れてものが言えんわ。次の働き先は決まっておるのか?」
「ねぇよ」
「だろうな。そなたの荒くれ具合は都に住む者なら皆知っている。お前を雇う物好きはおらんじゃろ」
「悪かったな」
「そんなお前に再就職先を紹介してやろう」
「俺帰るわ」
「待てい」
さっときびすを返したジーンの頭に杖を投げつける。
「年寄りの話は最後まで聞くもんじゃ」
「どぉせろくな話じゃないんだろ。あんたに就職先紹介さるるくらいなら無職のがまだましだ」
「ジーン……」
シルイヤの声が低くなる。彼女はハア、とため息をついてみせた。
「お前、私がいなかったら軍法会議で何度首が飛んでいたか考えてみろ」
「数学は嫌いだ」
「今までの恩は覚えておろう」
「生憎と鳥頭なんでね」
ジーン、とシルイヤが唸る。
「これは命令だ。お前に巫女シルイヤの名をもって、命じる。東の塔にいる子供の世話をしろ」
「……子供?」
ジーンは首を傾げた。
「東の塔は使われていない、立入禁止だろう。子供なんているのか?」
「……いる。お前にはその子供の世話係になってもらう」
「世話って……」
「簡単なことさ。日に三度、食事を運べばいい。我が儘な子供ではない。そう扱いに困ることはないだろう」
怪しい。
ジーンは警戒心をつのらせる。巫女直々の依頼に、塔に住む子供。怪し過ぎる。
「ことわ……」
「これは命令だ」
拒絶の言葉を遮って、シルイヤが命じた。
「東の塔に行け、ジーン」