序章:白の世界
かなり勝手な解釈をしています。そうじゃないだろ、みたいな言葉はごもっともですが、許してやってください…。
静かに、温かい空気が身体を包む。
徐々に意識がはっきりとしてくる。
ゆっくりと目を開けると、灰色の天井が見えた。染み一つない、きれいな天井。
指先に感覚が戻ってきたのを感じて、靄のかかったような頭で上半身を起こす。そこで初めて、彼は自分が裸であるのに気が付いた。しかし、まだはっきりしない頭では羞恥心もいまひとつで、気にせず周りを見回す。中央に円柱型の機械があり、そこを中心に自分が入っているものと同じカプセルが放射状に並ぶ。
いくつかのカプセルが同じく蓋を開けて冷たい空気を外へ追い出している。
完全に冷気が排出され、同時に身体と頭にはっきりと意識が戻る。
―――ようやく思い出した―――
カプセルから身を乗り出して側面のスイッチを押した。スイッチのすぐ下から引き出しが飛び出し、中から黒いウェットスーツに似た、肩や腰周りに赤い線が数本入っている服が現れた。
着ると見た目の割に微妙な体温調整をできるようで、熱くも寒くもない。
カプセルの置かれた部屋を後にする。簡素な廊下に出ると目の前にガラス張りが現われ、自分の姿を映した。その20歳にしては幼さの残る顔へ触れるかのように、鏡を指先でなでる。
「僕は、コールドスリープをしたんだっけ」
一言ずつ確認するように、口にする。ガラスに映る自分から……降り積もる灰色の雪と、眼下に広がる氷原へと焦点をずらす。
「崩壊した世界…か」
世界は3度の戦争を乗り越え、宇宙への進出を続けていた。宇宙開発は着実に進み、人々の見続けていた夢は現実化すると思われていた。しかし、地球環境を疎かにし続けたことが神の怒りに触れたのだろうか。
巨大隕石の接近が確認された。もし直撃すれば地球の消滅は免れない質量である。
人々は必死の抵抗を続けたが、質量を減らすことしかできず、結局衝突する。質量が小さくなっていたため地球の消滅は免れた。しかし、ユーラシア大陸の中心部を残してすべて海となってしまった。
やがて過去を辿るように氷河期が訪れ、地表は生物の住めない環境と化した。
生き残った者達は、ロシアに建設されていた技術センターへと、一様に詰め掛けた。しかし当然ながら大人数を養うほど食物を用意することはできず、餓死者は続出した。
わずか5年で10万を越える人口は100分の1以下になっていた。このままでは人類が死滅してしまう。そう思われていた矢先、ある提案が出た。
『氷河期もいずれは過ぎ去るだろう。ならばその間、子供たちをコールドスリープにかけてはどうだろうか?』
その提案は、様々な議論を経て承認される。幼い子を手放す親の気持ちが最後まで引きずられたが、人類存続をかければ仕方なかった。
選ばれたのは16人の少年少女だった。カプセルの都合上、これが限界だ。
平均年令12、親に先立たれた子供が中心の構成となった。次に目覚めるときは、よほど運がよくなければ大人と呼ばれる者はおろか、16人の選ばれた子供以外は生き残っていない。悲しみを少しでも感じさせないための配慮、と建て前は述べられているが、実は単に子供を手放したくないだけであった。
とにかく手筈は整い、皆に見守られて少年少女は眠りにつく。
また、暖かい世界の待つ世界へ。
かつてのノアになるべく。
「……そう、この氷期はそこまで長いものではないと考えられたんだ」
彼らには、なぜこのような世界になっているのか、なぜコールドスリープにかけられたのかなど、その他様々な生き抜くための知識を、眠りについている間に備えられていた。
だから、当然目覚める時期も把握していた。
だが―――今目の前に広がるのは、あまりにも想像とかけ離れているのだった。
「氷期は……まだ終わっていない。……早すぎる……」
ゆったりとしたペースで書いていきます。拙いですけど、どうか最後まで読んでください。