しっぽがみえた?
いつもと同じ8時10分のバスに乗って
一番後ろの席に座って
大好きな作家の本を読んで
めんどくさい学校に行く。
勉強は嫌いじゃない
けど、
わずらわしい友達と居る時間が嫌い。
楽しくもないのに、無理してテンションを上げて
この人たちを笑わせないといけないって思ってしまう自分が嫌い。
根っこは暗いくせに、誰にもそれを気づかれないように必死で隠して
それでも本当は凄く寂しい部分に気づいて欲しいって思っている自分も嫌い。
嫌い嫌いばかりで、なんだか情けないけど、
それがあたしなのかな。なんて思う。
だけど今日の放課後は、気の合う治会のメンバーと会えるから楽しみ。
直志くんは何を読んだだろう?
ウシダは試合うまくいったのかな?
まっきーは今日も仕事の愚痴を言うだろうか?
私たちいつから本以外の話をするようになったんだろう?
ひょんなことから、まったく関係のない私たちは繋がってるんだ。
世界の、日本の、大阪の片隅で、ちっさいちっさい出会いだけど、私にとっては居場所だって言える。
うん、だから今日も、嫌いな人たちの中でも、がんばる。
大きな音が鳴って、バスが停まった。
ヘッドフォンをはずして様子を伺う。
なんだろう?珍しいな。こんなところで停まるなんて。
そう思っていると、運転手さんのアナウンスで
「エンストみたいで・・とりあえず、乗客の皆さん一旦降りてもらえますか?」
と告げられた。
エンスト?ナニソレ?な私は、まぁ急ぐこともなく座っていた。
「代わりのバスとか来るんですかね?」と隣に座っていた方に突然聞かれる。
いや、私に聞かれても。バス会社の回し者でもあるまいし、なんてくだらないことを考えながら
「どーでしょうねぇ。」とつぶやく。
よく見ると男前な人ですこしドキッとする。いつも乗ってくる人だけど、近くで見るとカッコイイ。
目が悪いから良く見えてなかったけど。
こんな人が隣に座ってたのかと思うと、なんで今日に限ってこんなことにとか思ってしまった。
とりあえず彼の後ろに続いて一旦バスを降りる。
急いでいる人たちが、何やらさわがしく会社に連絡を取る。
性質の悪い人は、運転手さんに詰め寄っている。仕方ないやん、そんなこと言ったって。
私は急ぐことから完全に離脱している。急ぎたくない。というかこうゆうどうにもならない状況を楽しむ癖が小さいときからある。んー。運転手さん、代替とか、そんなんしなくっていいからね。ゆっくりいこうよ。
私も社会人になったら、あーやって会社に行くことに熱くなれんのかな?
むしろ今と同じで喜んでるんじゃないのかな。
このまま何も解決しませんよーにって祈ってるかも。
あー、かたじけない、私など居ないほうがいいなー。
「なぁなぁいっつも同じバス乗ってるやんな?」
色々考えてたら急にまたかっこいい男が話しかけてきた。
「え?」
「いっつも後ろの席すわってるやろ?」
「あー、そうですね」
「後ろ好きなん?」
「はい。なんか座ってますね。」
「ええなぁ。俺座ろうとしても座られてるときあるから無理やねん。」
「はぁ。」
なんだか人懐っこいひとだな。
「自分急いでるん?」
「いいえ、まったく」
「そんな感じやな。俺らだけやで、焦ってへんの。」
「あぁ。そうですかねぇ。」
「タクシーよぼか?どこまで行きたいん?」
「いや、別にいいんです、急いでないから。」
「ふーん。ほんならまぁおいでや。」
「え?」
「暇なんやろ?」
「暇ではないですけど。」
「えーやん。どーせ惰性の日々を送って自己陶酔してる大学生やろ?ちょっと相手してや、おータクシー来た。」
「え?」
「運転手さん、まぁゆっくり頑張りや。あんたのせいちゃうねんからな。」
何やこの人、と本気で思う。でも悪い気はしないのは、やっぱり顔がいいからかな。
まぁいつも同じバスに乗ってる人だ。悪い人じゃないはず。
すこしだけ、冒険してみよう。