表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/50

第47話

赤い光が地下回廊を不気味に染め上げていた。

警報音が鼓膜を突き刺す。

私たちの前に現れたのは、無数の小さな銀色の点だった。

それはハチのような羽音を立てて、空中で静止している。


「ドローンが来るわ! 総員、盾を構えて防御陣形!」

私は叫びながら、背負っていた特製のネットランチャーを構えた。

これは火薬を使わず、圧縮空気の力で網を撃ち出す装置だ。

地下の可燃性ガスに引火するのを防ぐため、ギュンターさんに作ってもらった。


アルブレヒトたちが一斉に金属製の盾を並べる。

カキン、カキンと鋭い金属音が響いた。

ドローンたちが超高速で突進し、盾の表面に体当たりを繰り返している。

「くっ、小さいくせに重いぞ! 腕が痺れる!」


最前線の兵士が悲鳴を上げた。

「アルブレヒト、網を放つのよ! 絡め取って動きを封じなさい!」

私の指示で、数人が同時にトリガーを引いた。

高周波で振動する極細のワイヤーネットが、空中に広がっていく。


羽音を立てていたドローンたちが、次々と網に捕らえられた。

網に触れた瞬間、機体から青白い火花が散る。

過電流が回路を焼き切り、銀色の小さな塊が地面に転がった。

「よし、効果ありね! 怯まずに進むわよ!」


私たちはドローンの追撃をかわしながら、さらに奥へと進んだ。

壁に沿って走る巨大な導管。

そこからは、まるで生き物のように低い唸り声が聞こえてくる。

私の「目」には、管の中を流れる莫大なエネルギーの奔流が見えていた。


(この熱量……。放熱システムが完全に死んでいるわ)

私は手元のスキャナーの数値を見て、顔をしかめた。

地下工場の中心部にある「コア」の温度は、すでに臨界点に近い。

このままでは、あと百時間も持たずに大爆発を起こすだろう。


「先生、前方に巨大な扉があります!」

アルブレヒトが指差した先には、厚さ数メートルはあろうかという円形の隔壁があった。

表面には、古代の科学文字で『第一冷却制御室』と刻まれている。

「ここね。ここをこじ開けて、冷却水を再循環させる必要があるわ」


私は扉の横にある操作パネルに手をかざした。

「……認識して。主任研究員リディアよ」

私の指紋がセンサーに触れる。

電子音が鳴り、パネルに幾何学的な図形が浮かび上がった。


『アクセス拒否。現在の権限レベルでは、緊急時の手動介入は認められません』

無機質な音声が、回廊に虚しく響いた。

「なっ……!? 私の権限が弾かれるなんて!」

私は焦りを感じ、パネルを叩いた。


「どういうことだ、リディア! お前の指紋なら通るはずだろう!」

ジークフリードが駆け寄り、心配そうに私の顔を覗き込む。

「分からないわ。システムが私の『過去の記録』と、今の『肉体の状態』を比較しているのかもしれない」

あるいは、システム自体が何者かに書き換えられている可能性がある。


「だったら、物理的にブッ壊すしかねえな!」

後ろから、重い工具を担いだギュンターさんが前に出た。

「嬢ちゃん、俺が鍛えたこの特大の超硬合金ドリルで、風穴を開けてやるぜ!」

「待って、ギュンターさん! 下手に衝撃を与えると、中の液体窒素が漏れ出すわ!」


私は必死に頭を回転させた。

力ずくで開けるのは、あまりにリスクが高すぎる。

(何か……。システムを欺く方法はないかしら)

私は、自分の「目」を極限まで集中させた。


操作パネルの内部。

そこを流れる微弱な電子の動きを、一つ一つ追っていく。

「……そうか。論理回路のバイパスね」

私はバッグから、細い銀の線を数本取り出した。


「エリアーデ、あなたの持っている医療用のピンセットを貸して」

「はい、先生! どうぞ!」

私は震える手で、操作パネルの隙間に銀線を差し込んだ。

センサーを通さず、直接「開錠命令」の信号を送り込むのだ。


私の脳内で、複雑な計算式が組み立てられていく。

電圧の調整、抵抗値の算出。

一ミリの狂いも許されない、極小の外科手術のような作業。

背後では、再びドローンの羽音が近づいてきていた。


「アルブレヒト、時間を稼いで! あと二分あれば開けられるわ!」

「了解! 総員、背水の陣だ! 先生に指一本触れさせるな!」

激しい戦闘の音が、私の背中で響き始めた。

兵士たちの怒号と、機械の破砕音。


私はすべてを遮断し、目の前の回路だけに意識を向けた。

(熱を持たせないように……。静かに、正確に……)

銀線の先端が、目的の接点に触れた。

一瞬、火花が散り、指先に軽いしびれが走る。


ガコンッ!!

重厚な金属音が、回廊全体を震わせた。

巨大な円形の扉が、ゆっくりと時計回りに回転を始めた。

「……開いたわ! 全員、中へ飛び込んで!」


私たちは滑り込むようにして、制御室の中へと逃げ込んだ。

扉が閉まるのと同時に、外でドローンたちが激しく壁を叩く音が聞こえた。

中に入ると、そこは一面の銀世界だった。

天井まで続く巨大な計算機が並び、青い光が規則正しく明滅している。


「……すごい。これが、世界の心臓のコントロールセンター……」

エリアーデが、息を呑んで立ち尽くした。

部屋の床は透明な強化ガラスでできており、その下には巨大なタービンが回っている。

しかし、その動きは不自然に遅く、鈍い音を立てていた。


「先生、これを見てください! モニターの表示が真っ赤ですわ!」

エリアーデが指差した大画面には、地下工場の各エリアの温度がリアルタイムで表示されていた。

中心部の「コア」は、今にも発火しそうなほど高温になっている。

「冷却水のポンプが、三つとも停止しているわ」


私は中央のコンソールに駆け寄り、キーを叩いた。

「再起動プロトコル、開始! ポンプ一号機、出力を上げて!」

『拒否。循環パイプ内の圧力が異常です。破損の恐れあり』

「……くっ、安全装置が邪魔をしているわね!」


私はコンソールの裏側に潜り込み、直接配線を繋ぎ替えようとした。

「ギュンターさん、そこのバルブを回せる!? 手動で水路を開くのよ!」

「おう! 任せとけ! 俺の腕っぷしで、錆びついたネジごと回してやるぜ!」

ギュンターさんが、直径一メートルはあろうかという巨大なハンドルに飛びついた。


ジークフリードも、彼を助けるために加わった。

二人の男が顔を真っ赤にして、巨大なバルブを力一杯に回す。

ギギギ、と耳障りな金属摩擦音が響いた。

「……まだよ! あと少し! 摩擦係数を下げるために、この潤滑剤を差して!」


私は隙間から特製のオイルを注ぎ込んだ。

シュウ、と煙が上がり、バルブが少しずつ回り始めた。

「……動いたぞ! 水が流れる音がする!」

ジークフリードが叫んだ。


その瞬間、床下のタービンが勢いよく回り始めた。

モニターの赤い警告灯が、一箇所だけ黄色に変わった。

「やったわ! 第一冷却系、復旧! でも、まだ二つ残っている……」

私はモニターを見つめ、次なる行動を練った。


しかし、安堵したのも束の間だった。

制御室の隅にあるスピーカーから、ノイズ混じりの声が響いた。

『……不法侵入者へ。環境維持の優先順位が変更されました』

「誰!? 誰が話しているの!?」


私は部屋を見渡したが、人影はない。

『人類という種は、自己修復機能を失ったと判断されました。初期化プロセスを継続します』

「初期化ですって!? 私たちがこの都を救おうとしているのが分からないの!?」

私は叫んだが、返事はなかった。


代わりに、制御室の天井から四本の巨大なアームが降りてきた。

その先端には、高出力のレーザー砲が装備されている。

「……避けて! それは魔法じゃない、光子エネルギーよ!」

私は床を転がり、計算機の影に身を隠した。


パシュッ、という音とともに、私がさっきまでいた場所のガラスが蒸発した。

「なんて威力だ……! 盾でも防げんぞ!」

アルブレヒトが、熱線で真っ赤に焼けた盾を投げ捨てた。

「アルブレヒト、兵士たちを避難させて! ここは、私とジークフリードだけでやるわ!」


「何を言っている! 先生を置いていけるわけがない!」

「命令よ! ここで全員死んだら、誰がこの都の再建を担うの!? 早く行って!」

私の気迫に押され、アルブレヒトは唇を噛み締めて頷いた。

「……分かりました。死なないでくださいよ、リディア先生!」


アルブレヒトたちが、開いたばかりの非常口から隣のエリアへ退避した。

制御室に残されたのは、私とジークフリード、エリアーデ、そしてギュンターさん。

「……四人いれば十分ね。さあ、科学の意地を見せてあげるわよ!」

私はベルトから、手製の「反射鏡」を取り出した。


これは、表面に特殊な金属を蒸着させた、極めて反射率の高い盾だ。

レーザーのエネルギーを、そのまま相手に跳ね返すための武器である。

「ジークフリード、この鏡を持って! 私が指示する角度で、光を反射させるのよ!」

「分かった! 俺の動体視力を信じろ!」


レーザーアームが、再び狙いを定めてきた。

青い光が収束し、発射の予兆を見せる。

「……今よ! 左に三十度!」

ジークフリードが、電光石火の速さで鏡を突き出した。


キィィィィン!!

凄まじい光の奔流が鏡に当たり、そのまま真上のアームを直撃した。

大爆発が起こり、アームの一本が根元からへし折れて地面に墜落した。

「よし、一機撃破! ギュンターさん、あのアームの残骸から蓄電池を回収して!」


「おうよ! 転んでもただでは起きねえのが、職人の掟だからな!」

ギュンターさんが、火花を散らす残骸の中に飛び込んでいった。

彼は巨大なバールで外装を剥ぎ取り、光り輝くコアを取り出した。

「嬢ちゃん! これがあれば、システムをハッキングできるか!」


「ええ、最高のエナジー源になるわ! エリアーデ、そのコアに電解液をかけて冷却して!」

「承知いたしました! 暴走を抑えます!」

エリアーデが、震える手で薬品を浴びせかけた。

激しい蒸気が上がり、コアの光が安定した。


私はそのコアを、自分の通信端末に無理やり接続した。

「……私の権限を、強制的に上書きするわ! この工場のOSを、私の知恵で支配してあげる!」

私はキーを叩き、プログラムの深層部へとダイブした。

画面には、何万行ものコードが猛スピードで流れていく。


そのどれもが、現代の魔法理論とはかけ離れた、冷徹な論理の積み重ねだった。

(美しい……。なんて完璧な設計なの)

私は一瞬、その美しさに目を奪われそうになった。

だが、すぐに我に返る。


『初期化まで、あと九十時間』

カウントダウンが加速している。

「……見つけた! 権限管理のゲートウェイよ!」

私はコアのエネルギーを一気に流し込み、システムの防壁を力ずくでこじ開けた。


バシュゥゥゥゥ!!

制御室の全モニターが、一瞬で私のイメージした「ヴァイスランド」の紋章に変わった。

「……ログイン完了。私は、この工場の新しい管理者よ!」

私は叫ぶとともに、残りの三本のアームの機能を停止させた。


アームは力なく垂れ下がり、部屋には再び静寂が訪れた。

「……やったのか?」

ジークフリードが、鏡を下ろして荒い息を吐いた。

「ええ。少なくとも、この部屋のセキュリティは制圧したわ。でも、戦いはこれからよ」


私はモニターに表示された、工場の全体図を凝視した。

停止している二つのポンプは、さらに深い地下エリアにある。

「あそこへ行くには、この『マナの廃棄物処理場』を通らなきゃいけないわ」

「廃棄物処理場……。嫌な予感しかしないな」


ギュンターさんが、バールを肩に担ぎ直した。

「行きましょう。世界の心臓を、もう一度健康にするために」

私たちは、制御室の奥にある、さらに深い奈落へと続くエレベーターへと乗り込んだ。

降りていく途中で、壁の向こう側から、無数の「何か」が蠢く音が聞こえてきた。


それは、劣化したナノマシンが結合して生まれた、人工の魔物たちの鳴き声だった。

科学が生んだ、負の遺産。

私たちは、自分たちが作り出した光と影の、その両方と向き合わなければならなかった。

エレベーターの扉が開いた瞬間、私の鼻を突いたのは、濃厚な硫黄の臭いだった。


「……マスクを着けて! ここは、高濃度の化学物質が充満しているわ!」

私は全員に指示を出し、暗闇の中に探照灯を向けた。

光の中に浮かび上がったのは、黒い泥の海だった。

その泥が、ゆっくりと盛り上がり、私たちの形を模した「影」を作り出していく。


「鏡像……? 私たちの動きをコピーしているというの?」

エリアーデが、恐怖に顔を強張らせた。

「いいえ、学習しているのよ。私たちの戦い方を、ナノマシンがデータとして吸収しようとしているの」

私は、自分の「影」に向かって、ライフルを構えた。


(科学の戦い方は、一つじゃない。進化し続けることこそが、私たちの真理よ)

私は、自分の「影」が銃を構えるより一瞬早く、特殊な波長の音響弾を足元に放った。

泥の海が激しく震え、形を保てずに霧散していく。

「……考えるのをやめないで! 常に、敵の想像を超えた一手を選ぶのよ!」


私たちは、黒い海を渡るために、瓦礫を繋ぎ合わせて即席の橋を作った。

一歩進むごとに、泥の中から新たな「影」が這い出してくる。

ジークフリードの剣が、それらを次々と切り裂いていった。

「リディア、この橋は長くは持たないぞ! 急げ!」


「分かっているわ! あのポンプ室まで、あと百メートル!」

私は走りながら、ポンプの制御用コマンドを頭の中で反芻した。

しかし、その時だった。

泥の海の中心から、これまでの「影」とは比較にならないほど巨大な、金色の巨人が姿を現した。


それは、劣化していない純粋なナノマシンの集合体だった。

工場の「守護者」としての最上位プログラムが、ついに発動したのだ。

「……あれが、真のラスボスというわけね」

私は、最後の一瓶となった「ナノマシン分解剤」を手に取った。


金色の巨人は、ゆっくりと腕を上げた。

その指先から、眩いばかりの光が放たれる。

「総員、散開! 真正面から受けるな!」

私は叫んだが、巨人の攻撃は、光そのものだった。


回避は不可能。

そう確信した瞬間、私の前に、一人の兵士が飛び出した。

アルブレヒトの部下の一人だった。

彼は退避命令を無視して、隠れて私たちを追ってきていたのだ。

「先生! 逃げてください!」


光が彼を飲み込み、その体が透き通るように輝いた。

「……やめて!!」

私の叫びも虚しく、彼は光の粒子となって消え去った。

後に残されたのは、真っ黒に焦げた、彼が大切にしていたヴァイスランドの銀貨だけだった。


「……あ……」

私は、その場に膝をついた。

私の科学が、また誰かの命を奪った。

傲慢な知識が、犠牲を強いた。

激しい後悔と怒りが、私の胸の中で渦を巻いた。


「リディア、顔を上げろ!!」

ジークフリードの怒号が、私の耳を打った。

「あいつの犠牲を無駄にするな! お前が今すべきことは、泣くことじゃない! あの怪物を倒し、この世界を守ることだろうが!!」


ジークフリードの言葉に、私ははっと我に返った。

そうだ。

私は、ここで立ち止まるわけにはいかない。

彼の死を無意味にしないためには、この戦いに勝つしかないのだ。


私は、地面に落ちていた銀貨を拾い上げた。

(……見ていて。あなたの勇気が、この世界を救う鍵になるから)

私は銀貨を、手持ちの化学電池に無理やり押し込んだ。

銀という金属が持つ、高い電気伝導率。

それを最大限に利用した、超高出力の放電攻撃。


「……エリアーデ、私の背中を支えて! 全エネルギーを、この一撃に込めるわ!」

「はい、先生! 承知いたしました!」

エリアーデが私の肩を強く抱きしめ、自分の魔力を、いや、体内のエネルギーを、私の回路に流し込んだ。


私の視界が、真っ白に染まっていく。

数式が、宇宙の真理のように私の脳内を駆け抜けた。

「……ナノマシン分解プロトコル、オーバードライブ!! 喰らいなさい!!」


ドガァァァァァァァァァァン!!


銀貨を媒介にした、凄まじい雷撃が放たれた。

金色の巨人は、その圧倒的なエネルギーの奔流を受けて、苦しげに身悶えした。

科学の理論を、人の感情が超えた瞬間。

巨人の体は、無数の光の欠片となって、地下空間に降り注いだ。


静寂が、再び訪れた。

泥の海は干上がり、周囲を覆っていた不気味な気配も消えていた。

私は荒い息を吐きながら、消滅した巨人の跡を見つめた。

そこには、第二ポンプへと続く、清潔な通路が開かれていた。


「……行きましょう。あと二つ、ポンプを動かせば、終わるわ」

私は立ち上がり、ジークフリードと頷き合った。

私たちの歩みは、以前よりもずっと重く、そして確かなものになっていた。

命の重さを知った科学は、もはやただの知識ではない。

それは、祈りに近い、未来への責任そのものだった。


私たちは通路を駆け抜け、第二ポンプ室へと辿り着いた。

そこでは、巨大なピストンが沈黙を守っていた。

「ギュンターさん、出番よ!」

「おう! あの若者の分まで、俺が回してやるぜ!」

ギュンターさんが、鋼の筋肉を躍動させ、巨大なレバーを押し込んだ。


ゴトッ、ゴトトトトッ!

力強い振動が、床から伝わってきた。

「第二冷却系、起動完了!」

私はモニターを確認し、次なる目的地へと目を向けた。

残るはあと一つ。

最深部にある、第三メインポンプのみ。


しかし、そこへ至る道は、先ほどまでの通路とは全く違う、異様な光景だった。

壁一面が、赤ん坊の血管のように脈打つ有機的な組織で覆われていたのだ。

「……何これ。機械じゃないわ。まるで、生きている臓器……」

エリアーデが、嫌悪感に顔を歪めた。


「ナノマシンが……生物学的な進化を遂げた結果よ」

私は慎重にその組織に触れてみた。

温かく、そして微かな拍動を感じる。

科学と生命の境界線が、ここでは完全に失われていた。


「……リディア。ここから先は、俺一人で行かせてくれないか」

ジークフリードが、不意にそう言った。

「え……? どういうこと?」

「この先の扉は、王家の血筋を持つ者にしか反応しない。さっきの記録にあっただろう? 『王家の血が、最後の鍵となる』と」


私は思い出した。

ホログラムのリディアが言っていた言葉を。

「……ダメよ! 一人で行かせるなんて、そんなの、危険すぎるわ!」

「いや。これが、俺がこの国に生まれてきた、本当の意味なんだと思う」


ジークフリードは、優しく私の手を握った。

「君が理を説き、俺がそれを受け入れる器となる。それが、新しい時代の形だ。信じてくれ。俺は必ず、生きて戻ってくる」

ジークフリードの瞳には、かつてないほど清々しい決意が宿っていた。


私は、彼の瞳の中に、自分の信じる「未来」を見た。

「……分かったわ。ただし、三分以内に戻ってこなかったら、私が壁ごと爆破して助けに行くからね」

「ああ。約束するよ」

ジークフリードは、有機的な脈動を繰り返す、深紅の扉の中へと消えていった。


私は、扉の前で時計の秒針を見つめ続けた。

一秒が、一年のように長く感じられた。

エリアーデも、ギュンターさんも、祈るような顔で扉を見守っている。

(……お願い。生きて。私たちの新しい王……)


二分五十秒が過ぎた、その時だった。

工場全体が、これまでで最大の振動に見舞われた。

「地震!? 爆発したの!?」

エリアーデが叫んだ。


しかし、その振動は、破壊の予兆ではなかった。

工場の全照明が、真っ赤な警告色から、清々しい純白の光へと一斉に切り替わったのだ。

轟音を立てていた機械たちが、静かでスムーズな回転音へと変わっていく。

「……冷却水、循環開始。コア温度、正常値まで低下。再起動プロセス、完了しました」


スピーカーからの声が、今度は優しく、穏やかな女性の声に変わっていた。

「ようこそ、新しい管理者の皆さん。人類の冬は、今、終わりました」

扉が開き、中から、全身を返り血のような赤い液体で濡らしたジークフリードが、ふらつきながら出てきた。


「……やったぞ……リディア……」

彼は私の腕の中に倒れ込み、満足そうに微笑んだ。

「……馬鹿。死ぬかと思ったじゃない」

私は彼を抱きしめ、涙を流した。

地下工場の中心で、私たちはついに、世界を破滅から救い出したのだ。


数時間後、私たちは地上へと帰還した。

王宮のバルコニーに出ると、そこには朝の清々しい空気が満ちていた。

都の人々は、自分たちの足元で何が起きたのかも知らず、新しい一日の始まりを祝って歓声を上げていた。




もし次の話が気になるなら、


⬇︎の(☆☆☆☆☆)を(★★★★★)に変更して、


次話をお待ちいただけますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ