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第46話

夜の静寂を切り裂いて、要塞列車「雷神号」が疾走する。

車内に響くのは、高圧蒸気がピストンを押し出す規則正しい轟音と、兵士たちの緊張した呼吸音だけだった。

私は指揮車両のモニター——数百個の微小な真空管と電球を組み合わせた、初期のレーダーシステム——を凝視していた。


「リディア先生、敵機との距離、三千メートルを切りました。数は……五、いや、後方からさらに三機接近中!」

アルブレヒトが、通信機を片手に叫んだ。

彼の表情には、かつての騎士としての勇猛さと、新しい兵器を扱う技術者としての冷静さが同居している。


「分かったわ。全車両、戦闘配置。一号砲から四号砲まで、交互射撃の準備! 敵の装甲はナノマシンの共鳴で強化されているから、一点集中で叩くのよ!」

私は手元の計算盤を弾き、弾道を修正した。

大砲の弾丸には、私たちが開発した「圧電セラミックス」が組み込まれている。

着弾の瞬間に強力な高電圧を発生させ、敵のナノマシン結合を一時的に無効化する特殊弾だ。


「……一号砲、装填完了!」

「二号砲、照準固定!」

兵士たちの力強い声が、インターホンを通じて戻ってくる。

彼らは魔法を失った絶望の淵から、科学という「自分の手で扱える力」を手に入れた。

その誇りが、彼らを極限の状況でも踏みとどまらせている。


「……撃てッ!!」


私の号令とともに、列車の側面が火を噴いた。

ドゴォォォォォォォン!! という凄まじい衝撃が車体を揺らし、暗闇の中に数筋の光の矢が放たれる。

数秒後、遠方の街道沿いで巨大な火柱が上がった。


「命中! 敵一機の脚部を破壊! 動きが止まりました!」

「よし、次よ! 二番機、三番機を狙って! 相手の熱源を感知して自動追尾する『赤外線追尾装置』を起動させて!」

それは私が、遺跡から持ち帰った古代の技術を解析し、この数週間で急造した装置だった。

まだ精度は低いが、この闇の中では何よりも頼りになる目となる。


銀色の戦闘機械たちは、列車の火力に驚いたように身を翻した。

しかし、彼らもただのガラクタではない。

機械的な脚を器用に使って地形を飛び越え、信じられない速度で列車に肉薄してくる。

一機の機械が列車のすぐそばまで接近し、その鋭い金属の爪を車両の装甲に突き立てようとした。


「……来させないわよ!」

私はレバーを引き、車両の外側に設置された「高圧送電放電パネル」を起動させた。

バチバチッ!! という激しい火花とともに、数万ボルトの電流が装甲表面を駆け巡る。

列車にしがみつこうとした戦闘機械は、強烈な電撃を受けて弾き飛ばされた。

内部の電子回路がショートしたのか、地面を転がりながら黒い煙を上げている。


「凄い……。これなら近寄ることさえできませんね」

アルブレヒトが感嘆の声を上げたが、私は気を引き締めた。

「油断は禁物よ。敵の『学習機能』が働けば、絶縁体を生成してくる可能性があるわ。今のうちに、残りの機体を叩き潰すのよ!」


列車は走り続け、線路と街道が並走する「デス・バレー」と呼ばれる渓谷へと差し掛かった。

ここは私の計算によれば、敵を袋のネズミにできる絶好のポイントだ。

「ギュンターさん、列車の速度を落として! 全砲門、扇状に展開して一斉射撃よ!」

「おうよ、嬢ちゃん! 蒸気ブレーキ全開だ! 振り落とされるなよ!」


列車の車輪が火花を散らして悲鳴を上げ、その巨体がゆっくりと停止していく。

その瞬間、左右の装甲が開き、隠されていた計十二門の大砲が姿を現した。

月明かりの下で、黒光りする砲身が敵の赤い瞳を冷たく見据える。


「……ターゲット・ロック。科学の裁きを受けなさい」


ドォォォォォォォォォォォン!!


王都を揺るがすほどの、連続した大爆発。

特殊弾が敵の集団の中心で炸裂し、凄まじい電磁嵐を巻き起こした。

銀色の機械たちは、断末魔のような金属摩擦音を立てながら、次々と機能停止に追い込まれていく。

ナノマシンの結合が解け、その強固な装甲が、ただの砂のように崩れ落ちていった。


静寂が戻った渓谷に、蒸気機関の排気音だけが響く。

モニターから、すべての敵の反応が消えたことを確認した私は、深く椅子に体を預けた。

「……終わった……のかしら」

「リディア先生、見事です。全機沈黙。我々の損害は……車両の塗装が少し剥げた程度です」

アルブレヒトが報告し、車内には安堵の笑い声が広がった。


だが、私はまだ胸の奥にある「しこり」が消えていないのを感じていた。

私の「目」が、敵を倒したはずの場所から、微かな「信号」を拾い続けている。

それは戦闘機械の発するノイズではない。

もっと、意思を持ったような、一定のリズムを刻む符号。


「アルブレヒト、調査班を出して。まだ動いている部品があるかもしれない。特に、核となる『演算チップ』を無傷で回収したいわ」

「了解しました。すぐに防護服を着た班を向かわせます」


私は列車から降り、冷たい夜気に身を晒した。

瓦礫の山と化した戦闘機械の残骸。

かつての文明の誇りが、今はただの鉄屑となって転がっている。

私は一機の残骸に近づき、その中央部に手を触れた。


その瞬間だった。

私の頭の中に、直接、声が響いた。

『……認識完了。リディア……遺伝子適合率、九十八パーセント……』

「っ……!?」

私は思わず手を引っ込めたが、声は止まらない。

『……システム・エラー……文明再建プロセスに不整合を検知……監視対象として、次の段階へ移行します……』


「……次の段階? 何を言っているの?」

私は残骸に向かって叫んだが、返事はなかった。

赤い瞳の光が完全に消え、残されたのは不気味な静寂だけだった。

アルブレヒトが駆け寄ってくる。

「先生! どうしました、急に声を上げて」


「……何でもないわ。ただ、この機械たちの背後には、まだ私たちが知らない『管理者』がいるのかもしれない」

私は自分の震える手を見つめた。

科学を極めれば極めるほど、この世界の謎は深く、そして巨大になっていく。

魔法を解明したつもりでいたけれど、私たちはまだ、その巨大な氷山の一角に触れたに過ぎないのだ。


翌朝、私たちは回収した部品を積み込み、王都へと帰還した。

勝利の知らせを受けた都の人々は、狂喜乱舞して私たちを出迎えた。

だが、私の心は晴れなかった。

ジークフリードが、王宮の入り口で待っていた。


「リディア、よくやってくれた。君はまた、この国を救った英雄だ」

「英雄なんて、もういいわよ、ジークフリード。それより、あの機械たちが残した記録を見てほしいの」

私は彼を連れて、すぐに地下の研究室へと向かった。


回収した演算チップを分析機にかけると、そこには驚くべき地図が表示された。

アークライト王国の地下深くに、蜘蛛の巣のように張り巡らされた広大な「空洞」のネットワーク。

そしてその中心には、王都の真下にある、巨大なエネルギーの溜まり場が示されていた。


「……マナの源流。古代のナノマシン生産工場……」

私は息を呑んだ。

王都アークライトが、なぜこれほどまでに魔法の力が強かったのか。

その理由が、今、科学的に証明されたのだ。

この街の地下には、世界を再び壊すことも、あるいは永遠の楽園に変えることもできる、巨大な工場が眠っている。


「ジークフリード、この工場を私たちが管理しなければならないわ。さもなければ、いつまたシステムが暴走して、街を丸ごと飲み込むか分からない」

「……王都の地下にか。なんという皮肉だ。俺たちが守ってきた城の下に、そんな爆弾が眠っていたとはな」

ジークフリードの表情が引き締まる。


「エリアーデ、あなたの病院の地下から、この空洞へアクセスできる道がないか調べてみて。アルブレヒトは、調査のための重機と、より強力な探照灯の準備を。地下探索用の、新しい特別チームを編成するわよ」

「はい、先生!」

二人の力強い返事が、地下の研究室に響いた。


数日後、私たちは王宮の古い地下墓地の奥から、封印された鋼鉄の扉を発見した。

それはこれまでの魔法の封印ではなく、指紋認証と虹彩認証を必要とする、科学的なロックがかかった扉だった。

私はおそるおそる、自分の指をスキャナーの上に置いた。

「適合。主任研究員リディア。入室を許可します」

という電子音声とともに、扉が静かに開いた。


その先に広がっていたのは、想像を絶する光景だった。

何キロも先まで続く、白く光る回廊。

その両脇には、巨大な水槽が並び、その中では数え切れないほどのナノマシンが、金色の雲のように漂っていた。

まさに「世界の心臓部」と呼ぶにふさわしい場所だった。


「……これが、魔法の生まれる場所……」

エリアーデが、その美しさに息を呑んで立ち尽くす。

しかし、その美しさの奥には、確かな「腐敗」も存在していた。

回廊の奥からは、黒い泥のような液体が溢れ出し、白い壁を汚している。

システムの一部が、長い年月の中で劣化し、暴走を始めている証拠だった。


「……浄化が必要ね。この心臓を、もう一度正しいリズムで動かしてあげなければ」

私は診断用の端末を操作し、工場の制御システムへとアクセスを試みた。

モニターには、膨大な数の警告メッセージが滝のように流れていく。

「コア温度上昇。冷却システム、故障。再起動まで、あと百二十時間」


「あと、五日間しかない……?」

私は青ざめた。

もし百二十時間以内にこの工場を正常化できなければ、地下に蓄積された莫大なエネルギーが一気に解放される。

そうなれば、王都アークライトは跡形もなく消滅し、この大陸全土が死の灰に包まれることになるだろう。


「……やるしかないわね。アルブレヒト、ギュンターさんをここに呼んで! 工事用のポンプと、大型の冷却ファンを至急搬入するのよ! 科学の総力戦を、ここで始めるわ!」

私の号令が、広大な地下回廊に響き渡った。

魔法という奇跡の裏側に隠された、人類最大の危機。

私たちは、自分たちが作り上げた技術のすべてを賭けて、地球の心臓を守るための戦いに挑むことになった。


最初の作業は、溢れ出した「黒い泥」の除去から始まった。

これは劣化したナノマシンの残骸で、強力な酸性と磁気を帯びている。

「素手で触っちゃダメ! 防護服の表面をセラミック加工して、中和剤を噴霧しながら進むのよ!」

私は指示を出しながら、自らも防護服に身を包み、汚染区域へと足を踏み入れた。


地下工場の空気は重く、オゾンの匂いと、何かが焦げるような嫌な匂いが混じり合っていた。

私は手元のスキャナーを使い、汚染の源流を特定していく。

「……あそこよ。第十三冷却パイプが破裂しているわ」

暗闇の中に、火花を散らして暴れる巨大な管が見えた。

そこから、噴水のように黒い液体が撒き散らされている。


「ギュンターさん! あの管を溶接して塞げる?」

「やってみるが、この熱と放電の中じゃ、普通の溶接は無理だ! 嬢ちゃん、例の『冷温溶接剤』はあるか!」

「ええ、ここに! 磁場を使って、一瞬で固めてあげるわ!」

私は電磁石を内蔵した特殊なガンを構え、破裂した箇所へと狙いを定めた。


火花が私のヘルメットを叩き、視界が白く明滅する。

極限の緊張感の中で、私は指先に全神経を集中させた。

「……今よ! 撃てッ!!」

銀色の粘液が放たれ、破裂したパイプを包み込んだ。

磁場によって急速に凝固し、黒い液体の噴出がピタリと止まった。


「……ふぅ。第一段階、クリアね」

私は荒い息を整えながら、次の指示を出そうとした。

だが、その時。

工場の奥から、地響きのような重低音が響いてきた。

そして、回廊を照らしていた白い光が、一斉に真っ赤に変わった。


「警告。未承認の干渉を確認。自動排除ドローン、起動」


「……何ですって!? 主任研究員として認識されたはずじゃ……!」

私の叫びに答えるように、天井のハッチが次々と開き、小型の飛行メカが無数に飛び出してきた。

それらは遺跡で見た戦闘機械よりも、ずっと速く、洗練された動きで私たちに迫ってくる。

「アルブレヒト! 防御陣形! ライフルは使わないで、火花で引火するわ! 高周波ネットで捕獲するのよ!」


地下工場の狭い回廊で、新たな、そして最も過酷な戦いが始まろうとしていた。

私たちは背中を合わせ、迫り来る科学の番人たちを迎え撃つ。

残り時間は、あと百十時間。

王都の運命は、まだ暗闇の中にあった。

私はネットランチャーを構え、最初の一機の機動パターンを読み取ろうと瞳を凝らした。

冷たい汗が顎を伝い、防護服の中に溜まっていく。

「……来なさい、科学の亡霊たち。私たちの知恵が、あなたたちを超えてみせるわ!」


私はトリガーを引き、最初の一網を放った。




もし次の話が気になるなら、


⬇︎の(☆☆☆☆☆)を(★★★★★)に変更して、


次話をお待ちいただけますと幸いです。

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