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色のない心は

埃の空色と夕暮れの街。灰色の空はこの国の終わりを予言するようにどこまでも灰色だった。この国の物語の主人公、未来来天堕(みらくる てんた)は、濡れたアスファルトと同じ色をしていた。さっきまで真夏のように暑苦しくセミが鳴いていたというのに、今は土砂降りだ。最近の異常気象にげんなりしつつ、そんなのは自分に関係ないと諦める。低身長の体は雨の中に消えてしまいそうなほど華奢で、雨の精霊と言われても誰も疑うことは無いだろう。いつも明るく元気に振る舞っているが心は、時空の隙間に叩き落とされたような気分だった。家に帰れば待っているのは、父親の影。母親からの暴力。兄弟からの罵り。誰かが無責任に付けた手錠も足枷も、もう永遠に解けないのだろう。ここに救世主が現れたらそれはまさに奇跡だ。自分はあと少ししか生きられないのは分かっている。この国の英雄になるのは僕。でも、自分という人間に意味など最初からないと思えた。気づけば川辺に向かっていた。そこに行くことは不正解であり、最適解であると思ったからだ。

一方、国の英雄と称される愛空嶺(あぞら れい)――れいは、街の煌めきを避けるように路地を歩いていた。かつて戦場で兵器として使われ続け、敵と言う名の尊い命たちを殺戮し続けた。今は策士として後方から作戦を練る立場にあった。自分が兵器の立場を免れたからと言って心の傷は癒えず、今でも天使処理班の異名を持つ。誰も愛せない。愛されるのも恐ろしい。でも、誰かに必要とされたら、応じてしまう。それが彼の性分だった。

ひょんなことから、二人は出会った。それは、てんたが川辺の橋に近づいた時の事だった。雨脚が強くなり、視界が滲む、てんたは足を滑らせてその場に転んだ。濡れた地面に手をつき、立ち上がろうとした瞬間、低い声がてんたを拾い上げた。

「大丈夫か?」

低い、抑揚のない声。てんたは顔を上げて、息を呑んだ。そこに立っていたのは、嶺だった。雨に濡れた黒いコートを羽織り、傘も差さずに佇む彼の姿は、まるで闇から現れた守護者のようだった。嶺は、戦いの記憶を振り払うために雨の中を歩くのが習慣になっていた。そこに偶然転びそうな少年を見かけ、声をかけた、それだけのこと。

てんたは慌てて立ち上がり、いつも通り明るい笑顔を浮かべた。皆には悟らせないよう、反射的に「あ、ありがとうございます! 雨で滑っちゃって、へへ。びっくりしましたよー。あなたみたいなイケメンさんに助けてもらえるなんて、ラッキーかも!」と口を動かす。言葉とは裏腹に、心の中では動揺している。でも、相手の目は冷たく、でもどこか優しげで、てんたの仮面を少しだけ揺るがした。

嶺は無言で元来た方を向く。この少年に特に興味はない。必要とされていないなら、去るだけだ。背を向けようとした時、てんたが声を上げた。

「待って! あの、濡れちゃってるし、近くのカフェでお礼させてくださいよ。コーヒーくらい奢ります!」

てんた自身、なぜそんなことを言ったのかわからなかった。死ぬつもりだったのに、この人に話しかけてしまった。でも、上手くやれば、利用出来る。明るく振る舞う仮面の下で、孤独が疼いて震えた。

嶺は一瞬、躊躇した。誰も必要としないはずの自分に、そんな言葉を投げかけられるのは珍しかった。愛されるのを恐れているのに、拒否しきれなかった。必要とされたら、全うする。それが彼のルール。

「……わかった。」

短く答えて、二人は雨の街を並んで歩き始めた。カフェに入り、温かいコーヒーを前に座った時、てんたはいつものようにおしゃべりを始めた。得意のトークはお手の物。いつも通り明るく振る舞うのは得意だ。でも、嶺の無口な視線が、てんたの心に小さな亀裂を入れる。嶺もまた、この少年の笑顔の裏に何かを感じ取っていた。戦場で培った勘が、警鐘を鳴らしていた。

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