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1話


 俺、田辺ヨウ(中肉中背)は、ついに買ってしまった・・・!

 何でも吸い込むとウワサの掃除機を!

 謎のボタンがびっしりついた最新型の多機能モデル。

 さっそく"愛機"の周りを掃除する。

「細かいホコリも取れるって噂だからな〜。ほーらよしよし〜超高性能掃——」

〈ガタァン〉

 ・・・俺の愛機[最新型没入式MMOゲーム機]を倒してしまった。


 ウィイイインという異音。

 どっちだ、掃除機からか?ゲーム機からか?

 横に倒れたゲーム機を見つめていると、手が下へ引っ張られる!


「ウエっ苦し・・・」

(す、吸われる・・・!?)



――視界真っ暗の中グルグルと彷徨わされること2分ほど・・・


 快晴の青空の中に放り出された。


(眩し!!)


 それよりも——


「"下"海じゃねえか!」

 一面真っ青に揺れる水の塊で俺の顔も真っ青。

(高いところから落ちた時の水って下手なモノより硬いっていうよなあ・・・!

とりあえず足先からスッと入水だ)


〈ズバァン!〉


(痛っ!高すぎんだろ何だこれ)

{HP20→16}

 妙な電子音が鳴った気がするがまずはとっとと泳いで浮き上がらなくては。

 痛む足先をバタつかせながら手で水をかいていく。


 なんとか水から顔を出すが——

(……俺泳ぐの下手すぎないか?夢の中みてぇだ。なんというか・・・重い!)

 それでもバタバタと動かし続ける。

(渾身の全力犬掻きだ!うるおああああ!うおらああ・・・らあぁ)

 疲れてきたところで何故か足元がふっと少し軽くなる。

(いける。泳げる)

 そのまま一心不乱に泳ぎ、ついに砂浜に着いた。


 なんか電子的なホログラムみたいな表示が浮かび上がっていた。

 ゲームで見るようなやつだ。

 わざわざ横から覗いてみると文字だけなのに無駄に3D表示されていたと分かる。

・・・追従してこっちに文字が向く。

どうやらスキルが上がったらしい。

[水泳:カナヅチ→浮き輪クラス]にランクアップだ。

「よ、よっしゃダサいもんからダサいもんになったぜ」

 大して嬉しくないが有るだけ損ではないだろう。


 ・・・よく見ると自分の服が変わっていた。

[布の服]になっている。

 これは没入型RPGの世界か?

 辺りをキョロキョロと見渡すが見覚えのない景色だ。

 ふと茶色い棒が目に入る。

 砂浜から緑になるあたりに茶色の剣が横たわっている。

 銅よりも黒っぽい色で錆びや焦げを感じさせる。

 『海岸で一度拾われた後に投げ捨てられたのだろう』と思わせるような土と砂のつき方。


じっと観察する。

ボロい剣{攻撃力2 耐久力∞? ただその時を待っている。}

 持つと重量感はあるが別に特別な力は伝わってこない。

 でもこれって伝説の剣じゃないか?

 こういうのって大抵は合成的なやつで鍛えていくと最強になるやつだろ。

 耐久力∞か〜、なに伝説の剣がその辺に転がってんだよーっていやまだそうと決まったわけではない。


〈ブォン〉

 剣を振ると鈍いが風切り音はする。

〈チンッチン〉

 爪を当てた感じたしかに耐久力は高そうだ。

〈チンッチン〉

〈ブォン〉

「ゲルルルッ」


(・・・ん?)

 森の草むらが揺れて黒い三つの頭が現れる。

 こっちへ歩いてくる。

「ガルルルゥ」

 黒い体に赤い首輪に三つ首・・・ケルベロスの類いだろう。

 小さいが筋肉質な見た目と大きく鋭利な爪に赤目という序盤の敵とはとうてい思えない格好。


(ゲームで言えば船を入手したら行ける場所とかそういうのなんじゃ――)


 素早く飛び込んできた。

 とっさに剣先を向ける。

(当たった!)

{0damage・・・!}

「ゼ、ぜろダメージ??」

 1も入らないとは・・・当てるだけでは足りないのか?

 タイミングよく剣を振ったり弱点に当てたりする必要があるのか。

 幸い炎の球を飛ばして来るようなことはないがどうやって倒せば・・・。

 こういう時は漁夫の利を狙う・・・つまり攻撃を誘導するのが鉄板だろう。

 

〈キンッ・・・チンッ〉

 逃げ回りながら攻撃をボロ剣で弾き返す。

 

——後ろにもう一体ケルベロスが見えた。

 別種族の方が敵対しやすそうだからそっちの方が嬉しかったがまあいい。

 前の三つ首の体が少し屈む。

(来る)

 さっきまで見ていたのと似たような飛びかかり。

 剣で首の側面を押して攻撃をいなし、背後のに当てる。

{48damage!}

「ゥガルルルルァ!」


(おっ一発で喧嘩が始まった)

 そそくさと距離をとって観察する。

〈ウアァ!ガウゥ!ガルル・・・ウゥワッ・・・ワァッ〉

 様子がおかしい。

(……なんか喧嘩して仲良くなってないか!?)

 お互いの腕を認め合ったかのように前足を肩に組んでいる。

 三つ頭の端のやつなんてペロペロと相手を毛繕いしている。

 スススっと後退しておく。

 幸いこっちには興味がない様子。

 

 体勢を変えて一体が四つん這い、もう一体が二本足で立つ。

〈パンパンパン〉

(わあああ!男女の前後運動をおっぱじめやがった!いやオスとオスか?)

 そんなことはいい、とっとと逃げよう。

 森を見渡すと草が禿げてベージュ色になっている道が見えた。

 まずはあっちだ。

 そーっと音を立てないように移動する。

〈ガサッ〉

 長い草に引っかかり、音が鳴った。

 前後運動ケルベロス(六つ首)の方を見る。

〈パンパンパン〉

 ・・・お楽しみ中のようだ。

 道に出た。

 ベージュの道に沿い、海と逆方向へ歩く。

 

 突然大きな物体が飛び出してきた。

〈ギッ〉

 剣で弾く。

 現れたのは{オオボンジアトカゲ}というやつらしい。

(序盤なら[大きめトカゲ]程度だろ普通!)

 向こうにも獣の陰が見える・・・。

(ここは逃げに限る!)


 走り、後ろを振り返りながらペチペチと硬いだけの剣でさばいていく。


 街が見えた!

 もう少しだ!と思って見た街の住人は二足歩行だが青い魚のようなモンスター。

 その左は何かの獣のような耳と尻尾の茶色いモンスター。

 足を緩めるか迷っていると——

〈ギンッッ〉

 なんとか背後からの一撃を防ぐが体が吹っ飛ばされる。

 (危ねえ、危うく攻撃をもらうところだった)

 とはいえ尻もちをつかされた。

 オオトカゲへ剣を構えながらジリジリと下がっていると背後から火球が飛ぶ。

〈ズバァン!〉

{133damage!}

 トカゲは焦げ、燃えカスになった。

「キミ!速く!」

 振り返ると杖を持つ魚人が『こっちへ』と片手を振っていた。

 立ち上がって走っていく俺。

「うおおおおお」

〈ボォン!〉

〈バアァン!〉

 後ろがすごいことになって熱風も伝わってくるが振り返らず街へ駆け抜けた。

{逃走:ピンポンダッシュマン→鬼ごっこ強者}

 逃げ切れたからかスキルランクが上がった。


「ハァハァ・・・ありがとうございますハァ」

「いえいえお気になさらず。それでは」

 途中一度だけ振り返って手の平を見せてくれ、住宅地へ去っていった。


 街の広場中央にはのんきに噴水が上がっている。

 見たところモンスターの街みたいだが平和な様子。

(ふう・・・せっかくだからこの世界攻略するか〜。やってたら色々分かるだろう)


 『なんか諸々の情報を出せ』と念じるとホログラムみたいなやつが出てくる。

 {職業:浮浪者 モミー:0ウェン}

 ・・・これじゃその日暮らしも怪しいな。

 そしてお金はマネーじゃなくてモミー、円じゃなくてウェンか。

 

 とりあえずこういうのは酒場やギルド的なところに行けばなんとかなるはず。

 金も身元もないけどとりあえず探してみた。

 

 手紙を背景に酒が前面に描かれた看板を見つける。

 外にはトゲトゲの肩ガーダーつき軽鎧を着た冒険者らしき人も居る。

 (ここだろ!)

 両開きドアを開けた。

 受付の女の人はお団子ヘアの獣人で体毛は黄色い。


「こんにちは、住所不定の一文なしです。あ、身元もありません」

 馬鹿正直にそれを伝えた。

(まっすぐな目で訴えればなんとかっ・・・なんとかなれ)

「かしこまりました。少々お待ちください」

 これといった戸惑いもない返答後、奥へ何かを取りに行ったようだ。

(なにっ試してみるもんだな)

 左側のスペースにはテーブルやカウンターや酒用の器具が見られるも人はまだいない。

 夜になったら賑わうのだろうか。


「お待たせしました」

 とても小さな四角い布を貰う。

「これは・・・?」

「冒険者バッジです」

「バッジ!?」

 その薄〜い布をひらひらさせようと振るが小さすぎてなびかないほどだ。

「特殊な魔力が込められていますよ。無くさないようにしてくださいね」

 なるほど、ただの布ではないらしい。

 多分ランクが上がると素材も豪華になるやつだろう。

 服のポケット奥へ突っ込んだ。

 身元不明、クローンや人造人間的な扱いだが登録できた。


「ではどうぞ依頼リストです」

「ありが——」

 両手で受け取った瞬間にフッと消えてしまう。

 受付さんは微笑んでいる。

「またどうぞ」

 会釈をし、酒場の端へ行く。

 

 依頼リストを受け取ろうとして消えてから頭がちょっとムズムズするのだ。

 気持ち悪さを引っ張り出すように念じると依頼リストが出てきた。

 さっきのホログラムみたいなゲーム的な表示。

 ……ケルベロスの舌20個……サーベルマントヒヒ5体の生捕り……

 この辺りの敵を討伐するのはまだ難しいだろう。

 まずは素材集め系で最低限のモミーを得ようか。

 遠出が必要ないらしい素材だと・・・7ウェンか。

 - ハイクスリ草を15個 依頼主:アーモンドローズの雑貨屋 -

 クスリ草は多分薬草で、ハイだからそれの上位だろう。

 名前は日本の法律に触れそうだけど普通にHP回復できるアイテムっぽい。


 酒くさい依頼所を出て進んでいると突然薄い黄緑色のエフェクトに包まれる。

「わっ!わ!」

 振り払おうとするが手をすり抜ける。

{HP16→20}

 回復だ。

 「ありがとうございます!」

 と言うが周りに術者らしい方は特に見当たらない。

 いわゆる辻ヒールか。

(でもいつの間に削れてたんだろう)

 何も分からないまま街を進む。


 剣マークの看板を高所につけた建物が見えた。

(武器屋かな?モミーを貯めて後で行こう)


 『ドコドコの国が争っていて困る』なんて話が聞こえてくるがこの街は平和みたいだ。

 このままゆるゆるやっていくのもいいかななんて思っていると――

 複数の人間が首輪と手錠で繋がれているのを見る。

(奴隷だ・・・。)

「おい、あれ!」

 思わず声が出た。

 狐みたいな糸目の男が平然とこちらを見る。

「ああ、ヒト科の奴隷だよ。モン権に反するから今は人間の奴隷ばかりだな」

 拳を握りしめる。

 この街も変えたいと思った。

 無視できない力を持てば変わるだろうか。

 ボロボロの剣を見る。

 {攻撃力2}

 この剣を復活させる、もしくは耐久∞を上手く使う必要があるか。

 まずは力をつけてから・・・と思っていたのに足が動いていた。


 フードを被った奴隷商人はカメレオン顔の男だった。

「いらっしゃイ」

 無駄に柔らかい声と手で迎えるようなジェスチャー。

 ぞろぞろと売られている者を見るとたしかにモンスターが居なくて人間ばかり。

 目に入ってくる子が一人いた。

 元気がなく、労働力にもならないんじゃないかというほどの痩せこけっぷり。

 他よりも布がボロくて服というより[布切れ]。

 髪が長くてボサボサ。

 しかも・・・

「髪が血に塗れてるぞ・・・!」

 綺麗な赤色じゃない。ちょっと時間経って酸化した血の色。

「えぇ、ええぇ」

 目の焦点があっていないカメレオン。


「ちぁ、ぃ」

 その子がかすれた声を発した。

「オオそいつか。タダでいいゾ。ホラ行けっ赤いの」

(えっ)

 所持モミー0ウェンだったから助かった(?)けど物扱いより酷い有様を目の前で見せられた。

 カメレオンの男・・・いや何よりこれを許す構造(この国)・・・!覚えておこう。


 {職業:元奴隷  名前: }

 名前のない子が細い脚でとぼとぼ寄ってくる。

 近くで見ると転んだまま治り切ってないあざや細かい傷が見える。

 そしてはっきり言ってめちゃくちゃ臭い。

 何週間に一回風呂に入れたんだってレベル。

 まずは風呂だな。

〈グゥゥ〜〉

(!?)

 自分の腹が鳴った。

(なに・・・このゲームは腹が空くのか・・・面倒なところ凝りおってからに)

 だがまずはお金を飯金飯金飯飯飯飯飯……

(頭が食欲に支配されるッッ!)


 空腹の無一文2人。

 食×水浴び×無料=川へ行くことに。

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