表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/189

89

 ――5日目3回戦、開始時刻。

 控室の空気は、少し重かった。

 外ではまだ歓声が響いているのに、この部屋だけは妙に静かだった。

 悠真はベンチに座り、両手を握りしめた。

 熱いわけでも、冷たいわけでもない。

 ただ、胸の奥でざらつくような感覚が残っている。

「次の相手、東堂烈か」

 黒瀬がタブレットを見ながら呟く。

「筋力強化の使い手。上級生でも名前が通ってる。力比べじゃ誰も勝てねぇ」

「十支族と実戦経験もあるんだってな」

 神谷が腕を組む。

「正面から殴り合うタイプだ。気をつけろよ、悠真」

「……分かってる。同じ強化系の能力者として参考にできる部分もあると思うし、全力で戦う。」



 リング上。

 昼の日差しがアリーナに差し込み、観客席を黄金色に染めていた。

「3回戦――《クラッシャー》相原悠真! 対するは、《筋力強化》東堂烈!!」

 アナウンスとともに、歓声が爆発した。

 東堂は巨躯の男だった。

 全身を走る筋肉の線が鎧のように硬く、拳を鳴らす音だけで空気が震える。

「クラッシャー。噂は聞いてる。だが――俺は拳でここまで登ってきた。

 どんな異能でも、鍛えた筋肉の前じゃ関係ねぇ!」

「……それが一番、信頼できる力だと思うよ。」

 悠真の瞳が、まっすぐに東堂を捉える。

 審判の手が上がり――「開始ッ!」


 瞬間、地面が砕けた。

 東堂の踏み込みは、爆音とともに風圧を生み出し、拳が空気を裂く。

 悠真が咄嗟に腕を上げた。

 衝突音が鳴り響き、リングが沈む。

《うわああっ!》《音がおかしい!》《結界歪んでるぞ!?》

 衝撃波の中で、悠真の体は揺れなかった。

 だが――受けた感触が、ない。

(……重さを感じないな)

 東堂が間髪入れずに突っ込んでくる。

 拳、肘、膝。すべてが鉄槌のように叩き込まれる。

 しかし悠真の身体は、その全てを弾き返していた。

 観客席からどよめきが走る。

《あれ全部受けてるのか!?》《防御してない!》《殴られてるのに動かない!?》


「筋力強化・臨界――!」

 東堂の身体が膨張する。

 筋繊維が赤く光り、体温が上昇、結界の表面が震えた。

 拳を振りかぶる瞬間、彼の足元から砂煙が吹き上がる。

「これが――全開だあぁッ!!」

 悠真が拳を握った。

 意識よりも早く、身体が前へ。

 東堂の拳が迫る前に、悠真の右腕が閃いた。

 音が、消えた。

 次の瞬間、東堂の巨体が吹き飛んだ。

 壁に激突し、鉄骨がきしむ。

 観客が息を飲む。

《な、何が起きた!?》《カメラ飛んだぞ!?》《人間の動きじゃねぇ!》

 

 審判が駆け寄る。

「東堂烈、戦闘不能! 勝者――相原悠真!!」


 観客席が爆発したように沸いた。

《クラッシャー最強!》《また無傷!?》《物理でも勝てねぇ!》

 東堂は倒れたまま笑った。

「……すげぇな。力じゃ勝てねぇ。

 けど、お前……人間かよ、ほんとに。」

 悠真は答えられなかった。

 拳を握ったまま、静かに立ち尽くす。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ