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週末を挟んで登校した教室は、いつにも増して賑やかだった。
あちこちで「パーティ組もうぜ!」と声が飛び交い、すでにグループが出来上がっている。
「俺ら四人で組むことにした!」
「お、いいじゃん! じゃあ週末また上層行こうぜ」
「安全エリアの売店、けっこう良かったぞ。ポーションはちょい高いけど必須だな」
にぎやかな声を横目に、俺は席に着いた。
机に教科書を並べながら、笑い合うクラスメイトたちを見渡す。
(……もうパーティが出来てるのか。みんな本気だな)
Fランクでも、仲間と組めば上層探索はずっと楽になる。
実際、週末に安全エリアで軽食やポーションを買っていたという話も聞こえてくる。
俺は思わず苦笑した。
(俺はソロだし、知らないことばっかりだな……)
そんな俺の視線に気づいたのか、前の席の男子がふと振り返った。
「なあ相原、お前は誰と組むんだ?」
「え、あ、いや……俺は、ソロでいいかなって」
「そ、そうか」
少し気まずそうに頷かれて、会話はそれきり途切れた。
教室の空気が明るければ明るいほど、自分だけ輪の外にいる気がした。
昼休みが終わり、担任が教壇に立った。
教室のざわめきがすっと収まる。
「さて、お前たちに一つ大事な知らせがある」
その声に、みんなが一斉に顔を上げた。
「来月、『日本探索者連盟・東京本部』で新人交流遠征が行われる」
その言葉に、教室が一気にざわついた。
「マジか! 本部ってあの新宿ダンジョンの隣だろ!?」
「すげえ……全国の新人が集まるやつか!」
「十支族も来るって噂の……」
期待と興奮で空気が弾ける。
担任は手を叩いて静かにさせると、続けた。
「全国の探索者養成校から十校ほどが集まり、実習を行う。もちろん危険は最小限に抑えられるが、ただの観光ではない。真剣に挑むように」
俺は机の上で手を握りしめた。
(東京本部……新宿ダンジョン……十支族……)
ニュースや配信でしか見たことのない舞台。
そこに自分が立つのかと思うと、不安と同時に妙な胸の高鳴りを覚えた。
「詳細は後日伝える。心して準備しておけ」
担任の言葉で告知は締めくくられたが、教室はしばらくざわつきっぱなしだった。
授業が終わり、教室を出る。
楽しそうにパーティで固まって帰るクラスメイトを横目に、俺は一人ギルドへ向かった。
(みんなに置いていかれてる気もするけど……俺は俺でやれることをやるしかない)
昨日に続いて今日も探索に挑むつもりだった。
たとえ一人でも。
たとえ不安でも。
(……東京遠征か。俺、どこまでやれるんだろうな)
胸に芽生えたざわつきを押し込めながら、俺はギルドにたどり着いた。