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 深層の闇がざわめいた。

 湿った空気を震わせるように、重低音の唸りが響く。

 ――ズズッ。

 通路の奥から、赤黒い紋様を刻んだ大型の影が歩み出る。

 リザードマンの異常個体。だがその体つきは通常よりも細身で、瞳は血走った赤。動くたびに黒い残像を引き、常識を逸した速度を感じさせた。

《やばいの出てきたぞ!?》

《俺リザードマン初めて見たわ》

《視聴者数100万も近いぞ!》

 配信画面がざわつき、コメントが滝のように流れる。

(こいつは、速そうだな...)



「来るぞ!」

 神谷が盾を構えた瞬間――。

 赤黒い影が弾丸のように飛び出した。

 次の瞬間、神谷の巨盾が跳ね上げられ、本人ごと弾き飛ばされる。

「ぐっ……!?」

 続けざまに黒瀬が風刃を放つが、リザードマンは残像を引いて回避。

 アシュベルの雷槍が轟音とともに放たれるも、その稲光すら紙一重でかわしていく。

「なっ……速すぎる!」

 誰も捕らえられない。

《神谷がふっとんだ!?》

《雷すら追いつかないとか反則だろ》

《やべぇ、こいつ速すぎて見えねえ……》

 視聴者のコメントも不安一色に染まっていく。


 凛が咄嗟に結界を展開し、動きを制限する。

 リーメイが振動拳を放つ。拳が空気を震わせリザードマンに攻撃が当たる。だが――かすり傷程度。

「っ……! 一撃で仕留められないアルか」

 リーメイが舌打ちを漏らす。

 アシュベルが歯を食いしばる。

「俺の雷ですら捕らえられない……!? 化け物め!」

 圧倒的な速さに、十支族すら翻弄されていた。


 その時、リザードマンがリーメイへ襲いかかった。

 細い刃のような腕が振り下ろされる。

「リーメイ!」

 悠真が割って入った。

 拳と拳が衝突する――轟音が広間を揺るがし、衝撃波が空間を震わせる。

「……速い。でも、見えないわけじゃない」

 悠真の瞳が、赤黒い残像を追いかけていた。

 攻撃をいなし、軌道を読む。少しずつ、確実に。

《おおおお!?クラッシャーが止めた!》

《速度型すら適応していくのかよ……!》

《拳一発で広間揺れたぞ!?》

(見えるなら、なんとかなりそうだ。速さなんて――壊せばいい)

 悠真の中に、かつての迷いはなかった。


「黒瀬!」

「わかってる!」

 悠真が進路を塞ぐと同時に、黒瀬が風で軌道を逸らす。

 凛が結界を展開し、逃げ場を塞ぐ。

 リーメイとアシュベルが同時に飛び込んだ。

「――振動崩拳!」

「――雷槍・穿天!」

 雷と衝撃が重なり、リザードマンの体を貫いた。

 その瞬間、悠真の拳がうなりをあげる。

「おおおおっ!!」

 一撃。

 巨体が壁ごと粉砕され、崩れ落ちた。

 視聴者コメントが爆発する。

《クラッシャー最強!》

《十支族と肩を並べる男》


 地面に転がった魔石は黒く、表面に赤い紋様が脈打つように浮かび上がっていた。

《……やはり普通の個体ではないな》

ギルド職員のコメントが目に入る。

 悠真は拳を見下ろした。

(……鍛錬のおかげなのか、自分の力に日々体が慣れていってるのか...どんどん思ったように体が動くようになっている...)


《これ以上は危険だ。今回の任務はここで中断とする!深層を更に進むにはもう少し人員が必要だろう。ありがとう。帰還してくれ。》

 ギルド職員の言葉に、全員が頷いた。

《異常魔石やべぇな……》

《続きが気になる……!》

 視聴者数は100万を超えたまま。

 全国が注目する中での撤退だった。

 悠真は振り返る。闇の奥から、なおも気配が漂っている。

(……まだ、終わっていないのか...?)

 拳を握りしめながら、彼はゲートへの帰路についた。



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