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翌日。
帝都探索学園の転移ゲート前には、普段では考えられないほどの人だかりができていた。ギルドの職員、教師陣、報道関係者……そして巨大モニター越しに全国へと流される配信。
表示された《同時視聴:88万》の数字が、この任務の注目度を如実に示していた。
(……これだけの人が見ているのか。さすが十支族が集まる任務だな)
悠真は緊張で強張る胸を深く息で押さえ込む。隣ではフォン・リーメイが両手を腰に当て、にっこりと笑った。
「みんな、安心するアル! アタシが来たからには任せるヨ!」
その堂々とした声に、周囲がざわめき、カメラのレンズが一斉に向けられる。
「派手なことを言うな。だが――嫌いじゃない」
アシュベルが雷槍を肩に担ぎ、不敵に笑う。
そして一行は、光の揺らめく転移ゲートへと足を踏み入れた。
――新宿ダンジョン、中層。
降り立った瞬間、肺を刺すような湿気と、重く淀んだ空気が一同を包み込む。
悠真は奥歯を噛みしめた。
(……前に来たときよりも空気が重い、気がする...)
神谷が盾を構え直す。
「前は俺が押さえる。相原、いつでも行けるようにしとけよ!」
「観客は多いからな。気合が入る一撃を頼むぞ」
アシュベルが言い、火花を散らすように視線を向けてきた。
「……うん、分かってる」
悠真は静かに拳を握りしめる。
通路の奥から、ゴブリンやオークの群れが一斉に姿を現した。咆哮とともに押し寄せる数十体。
「初戦はアタシに任せるアル!」
リーメイが前に出た。
次の瞬間――。
振動拳が地面を打ち抜いた。
轟音とともに壁が崩れ、岩の破片が雨のように降り注ぐ。その衝撃に巻き込まれた魔物たちは、悲鳴を上げる間もなく潰されていった。
沈黙が場を支配した。
「……おいおい、壁ごとやりやがったぞ」
「さすがだな。能力と武術の相性は抜群だ」
アシュベルが舌打ち混じりに認める声を出す。
「……さすがね」
凛が結界を張りながら小さく感嘆する。
だが、その横で悠真が一歩前に出た。
「俺もやる」
襲い掛かってきたオークを狙い、拳を振り抜く。
――ドガァァンッ!
床が陥没し、轟音とともにオークの巨体が粉砕される。衝撃が通路全体を揺らした。
「うわっ……!」
《床ごと崩した!?》
《これがクラッシャーか!》
沈黙が再びどよめきに変わり、悠真は小さく息を吐いた。
(……これが俺の力。存分に発揮して皆を守るんだ)
「なかなかやるアルね!」
リーメイが楽しそうに笑い、拳を軽く掲げて見せる。
「……お前ら、壊しすぎだ」
神谷が苦笑混じりに盾を下ろす。
戦いを終えた後、残骸の中からひときわ光を放つ石が転がり出た。
魔石――だが、その表面には黒く歪んだ紋様が浮かんでいる。
《……またこれか》
ギルド職員のコメントが目に入る。
「数が増えている」
凛が眉を寄せた。
「フッ、面白くなってきたじゃないか」
アシュベルの目が爛々と輝く。
不安と興奮が入り混じった空気が流れる中、悠真は拾い上げた魔石を見つめた。
(……異常は収まる気配がない。原因は、まだ……見えない)
さらに奥の闇へと進んだ時――。
視界の端で、巨大な影が揺れた。
咆哮が響き渡り、通路全体が震える。
《何かいるぞ!?》
《今、影が動いた!》
《これ、また中ボス級じゃね?》
コメント欄が爆発する。
(……気配が濃い。前よりも、強い)
悠真は全身を緊張させ、闇の奥を睨みつけた。




