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会議が終わり、悠真は学園の廊下に出た瞬間、大きく息を吐いた。
胸の奥がずっとざわついていたのを、ようやく解き放つように。
「どうだった?」
声をかけてきたのは真田だ。心配そうな視線が向けられる。
「……また新宿ダンジョンだって。次はもう少し深くまで追加調査みたいだ。」
静かに答えた。緊張と、少しの決意を滲ませて。
その日の午後、任務前の顔合わせを兼ねた簡易模擬戦が訓練場で行われた。
集まった生徒や教師が見守る中、まず前に出たのは――中国から来た少女、フォン・リーメイ。
「行くネ!」
構えを取ると同時に、木でできた人形に軽く拳を添える。
――バキィッ!
触れただけに見えたのに、木人形は内部から弾け飛ぶように粉砕され、床に木屑が散った。
一瞬、訓練場が静まり返る。
「さすがだな。能力と中国武術の相性は抜群だ」
アシュベルが口元を歪め、賞賛とも挑発とも取れる声を洩らした。
続いて凛が前に進み、淡い光をまとった結界を展開する。
「私の結界を……壊せる?」
「任せて!」
リーメイが拳を振り抜いた瞬間、結界が振動に耐えるも若干のヒビが入る。
十支族同士のじゃれ合い――その圧倒的な格を、場に見せつける。
悠真はごくりと喉を鳴らした。
(……強い。本物だ。だけど――)
「次は俺だ」
静かに前に出て、拳を握る。目の前にはゴブリン型の模擬体。
深呼吸一つ。力を込めて――振り抜いた。
――ドゴォン!
模擬体は一瞬で粉砕され、その衝撃で床が大きくひび割れた。
巻き起こる砂煙に、訓練場がどよめく。
「……これが配信でも見たクラッシャー...圧倒的な破壊力ネ。本当にただの身体能力上昇か不思議すぎるネ」
リーメイが驚き混じりに呟き、アシュベルも眉を上げる。
悠真は拳を見つめ、静かに握り直した。
(俺も……負けられない)
その日の学園。
談話室や廊下では噂が広がっていた。
「クラッシャー達がまた新宿ダンジョンの調査に行くらしいぞ」
「危ないけど早く解決するといいよね...」
ざわめく声の中で、真田は呟いた。
「でも……あいつならやれる」
白鳥も頷く。
「信じてるから」
その少し離れた場所で、黒瀬は無言で拳を握っていた。
(……新しい十支族だと? 冗談じゃねぇ俺だってやれるんだ...)
夕刻。ギルド支部で行われた正式ブリーフィング。
職員が重々しい声で告げる。
「新宿ダンジョン深層の調査。異常個体の魔石を調べたところ、これまでに見たことのない模様が見られた。
任務はあくまで調査最優先――だが、戦闘は避けられないだろう。よろしく頼む。」
その言葉に、全員の表情が引き締まる。
緊張が空気を満たし、誰も軽口を挟まなかった。
夜。
寮の窓辺で悠真は一人、夜空を見上げていた。
月明かりに拳をかざし、心の中で言葉を刻む。
(十支族に囲まれても……俺は俺の戦いをするだけだ。今度は――全力で)




