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轟音が響いた。石壁が震え、冷たい空気すら揺らされる。
通路の奥、闇の中から姿を現したのは――異常に肥大化したオーク。
通常の二倍はあろう巨体、両腕に黒い紋様が浮かび、瞳は赤い光を放っていた。
《視聴者数:60万突破》
《でけぇ!》
《なんだこいつ、怖すぎる》
配信コメントが荒れ狂う中、悠真は拳を握る。
(……強い。俺なら――)
一歩前に出ようとした瞬間、横から声が響いた。
「ここは、私たちに任せて」
凛が静かに前に進み出る。結界が展開され、空気が張り詰める。
その隣で、アシュベルが雷槍を回転させ、不敵に笑った。
「こういう時こそ、俺たちの舞台だろう」
二人の気配が変わった。
悠真は息を呑む。圧倒的な存在感。桁違いの気配に、足が自然と止まった。
《流石に十支族も負けてられないよな》
《キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!》
咆哮とともにオーク・ロードが突進する。
だが凛が一言。
「――固定」
結界が巨体を縛り、床に縫いとめた。
巨体が暴れ、石床を砕く。それでも結界は揺らがない。
「雷穿ッ!」
アシュベルが雷槍を突き出す。
稲光が一直線に走り、オーク・ロードの胸を貫いた。
轟音。
閃光が消えた時、巨体は崩れ落ち、動かなくなっていた。
「……あっけねぇな」黒瀬が舌打ち混じりに笑う。
「俺でも抑えるのは難しかったかもしれん」神谷が冷静に分析する。
悠真は拳を握りしめたまま、立ち尽くした。
(俺の一撃でも倒せた…かもしれない…でも、これがチームワーク。鮮やかだったな...)
胸の奥で悔しさと憧れが渦を巻く。
(負けてられない……!)
神谷が巨大な魔石を拾い上げる。
「……やはり通常の進化ではない。まだ奥に異変は続いているかもしれないが、どうする?」
《十支族強すぎw》
《クラッシャーの番は?》
《次は本番か?》
緊張の中、ギルドが決断を下す。
《ここから先は危険すぎる。一度帰還して体制を立て直してもらいたい。》
誰も異論はなかった。
悠真も拳を下ろし、無言で頷く。
転移ゲートに戻り、地上へ。
光の中から現れた瞬間、学園前の広場がどよめきに包まれた。
ギルド職員、教師、生徒たちが集まり、ニュース用のカメラまで構えている。
「十支族が異常個体を討伐!」「クラッシャーも同行!」と声が飛び交う。
談話室の大画面で見守っていたクラスメイトたちも、拍手と歓声で迎えた。
「よく帰ってきたな!」真田が笑う。
「無事でよかった……」白鳥が安堵の息を漏らす。
黒瀬は腕を組んだまま、「……逃げなかっただけマシだな」と皮肉を言ったが、目の奥はわずかに柔らいでいた。
悠真は皆の声を受けながら、そっと拳を見下ろす。
(次は俺も、絶対に結果を残す……!)
その決意を胸に、視線を上げた。
光に包まれた広場が、歓声と注目の渦に飲み込まれていった。




