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学園の転移ゲート前。
簡易に設けられた作戦会議用のテントの中で、ギルド職員が地図を広げていた。
「今回の任務はあくまで調査だ。殲滅ではない。異常の確認が最優先だ」
その言葉に頷きながら、各メンバーは自分の役割を確認していく。
「俺は前に出て、ヘイトを稼ぎつつ叩く。」
神谷京介の低く落ち着いた声。
「俺は風で神谷の援護だな」
黒瀬蓮が不満げな顔をしながらも、淡々と告げる。
「私は結界で全体を守ります」
天城凛は静かに微笑み、柔らかな声で答えた。
「俺は雷で焼き尽くす。……足手まといになるなよ」
アシュベル・フォン・アイゼンリヒトは不敵に笑い、雷槍を軽く撫でた。
視線が最後に集まる。
悠真は、一瞬だけ深く息を吸った。
「……俺は全力を出す。新宿ダンジョンは俺にとって因縁の場所。できることをして貢献したい。」
短い言葉。だが、その声音には迷いがなかった。
仲間たちは一瞬驚いたように目を見開き、やがてそれぞれ頷いた。
「そうこなくちゃな」黒瀬がわずかに口角を上げる。
「……そうね、今回はいつものダンジョンではなさそうですし」
こうして特別調査パーティは、転移ゲートの光へと歩み出す。
地下の空気は冷たい。湿った匂いが鼻をつき、足音が岩壁に反響する。
悠真は拳を握り直す。(……今度は一人じゃない。この仲間と一緒なら)
画面右下には視聴者数が表示される。
《同時視聴:12万》
《今日のクラッシャーは雰囲気違うぞ》《ガチモードきた?》
コメントが賑わいを増していく。
最初の戦闘は、ゴブリンと狼型の群れだった。
「前は俺だ!」
神谷が盾を構えつつ肉体を硬化させ突進を受け止める。
その横を黒瀬の風刃が走り、数体を切り裂いた。
背後から天城の結界が光を放ち、仲間を守る。
「どけ」
アシュベルが雷槍を一閃、数匹が黒焦げとなる。
悠真は一歩前に出た。
「――はッ!」
振るった拳は空気を裂き、直線上のモンスターをまとめて粉砕する。
壁まで吹き飛ばされた群れは、そのまま動かなくなった。
コメント欄が一斉にざわめく。
《えげつねぇw》《これが模擬戦優勝者か》《十支族並じゃねーか!》
仲間たちも一瞬だけ動きを止め、そして苦笑を浮かべる。
「……やっぱ化け物だな」黒瀬が小声で呟く。
悠真は深く息を吐き、心の中で呟いた。(……これが、俺だ)
順調に階層を進んでいく。
だが、その途中――。
「……あれを見ろ」
神谷が低く告げた。
通路の先に転がっていたのは、大型モンスター・オークの死体。
その胸部には魔石が残されたまま、光を鈍く放っている。
ギルド職員も配信にコメントを残す
「……やはり報告通りだな」
空気が一気に張り詰める。
悠真は拳を握り、前を見据えた。
「奥に……何かがいる」
視聴者数がさらに跳ね上がる。
《同時視聴:15万》
《これ絶対ヤバいやつ》《事故の再来か?》
だが悠真の目に迷いはなかった。
(俺はこの力で仲間を守る。前と同じように。)
深呼吸し、闇の奥へと踏み出す。
仲間と共に――。




