表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/171

 翌朝。

 学校に行くと、教室は昨日のギルド登録の話題で持ちきりだった。

「結局、全員Fランクからスタートなんだな」

「ま、そりゃそうだろ。いきなり上だったら危ねぇし」

「でもパーティ組めば上層くらいは余裕だろ!」

 男子たちが集まっては、楽しそうに作戦を練っている。

「俺とお前とあいつで三人組もうぜ」「四人で行けば稼げるな!」

そんな声が飛び交う中――ふと俺の方へ視線が集まると、ひそひそ声が混じった。

「……でも相原って、S判定だろ?」

「同じFでも、能力Sとか……正直、誘いづらくね?」

「だよなぁ……」

 その言葉が耳に入ってきて、思わず俯いた。

(俺だってFスタートなのに……結局、また浮いてる)

 注目されているのは分かる。でも、それが距離を生んでしまっているのも分かってしまう。



「ねえ悠真くん」

 女子が声をかけてきた。

「え、な、なに?」

「なんかさ、寝不足してそうなのに、全然肌荒れしないよね」

「あ、あはは……体質かな?」

 心臓が跳ね上がったが、なんとか笑ってごまかす。

 まさか【美肌】のスキルが効いてるなんて言えるわけがない。

 周囲も特に深掘りせず、「羨ましいな〜」と軽口で流れてくれた。

(……危なかった)



 放課後。

 俺は一人で地元ギルドへ足を運んだ。今日は初めて「お小遣い稼ぎ」をしてみるつもりだ。

「おう! 昨日の新人じゃねえか!」

 声をかけてきたのはCランク冒険者の大槻剛。

 筋骨隆々の体格に豪快な笑み。昨日、素材を売っていた人だ。

「きょ、今日はちょっと潜ってみようかと」

「ははっ! いい心がけだ! だが帰ってくるのが一番大事だぞ。無理はすんな!」

 背中をドンと叩かれ、緊張が少しだけ和らいだ。



 初心者用ダンジョン。

 昨日と同じ上層だけど、今日はレンタルの剣を手に持ち、正式に探索者として足を踏み入れる。

ダンジョンに入ると、頭上にふわりと光の粒が浮かんだ。

ギルド配信用の追尾カメラ――魔導石でできた監視装置だ。

ダンジョンに入った探索者は全員、自動でこのカメラに映し出される仕組みになっている。

「……ああ、これが配信か」

誰でも見られるらしいが、上層に潜る新人なんてほとんど再生されないと聞いている。

少しだけ緊張しながら、一歩を踏み出した。

 薄暗い洞窟を進むと、ぐにゃりとした影――スライムが現れた。

 剣を構え、恐る恐る突き出す。

 ――ズガンッ!

 刃が突き刺さると同時に、スライムは四散。

 だがそれだけじゃない。

 俺の手にあったレンタルの剣が、根本からバキバキに砕け散った。

「……えっ?」

 慌てて柄だけを握りしめたまま硬直する。

 やばい、壊しちゃった――そう思った瞬間、別のゴブリンが飛び出してきた。

「うわっ!」

 反射的に残った柄を振るう。

 ――ドガァッ!

 その一撃だけで、ゴブリンは壁に叩きつけられ、動かなくなった。

 足元には、完全に原型を失った剣の残骸。

(……絶対これ、俺の力がおかしい……!)

端末に目をやると、俺の探索記録の配信が保存されていた。

再生数は――「0」。

「……だよな」



 慌てて素材だけ拾ってギルドに戻り、窓口へ。

「スライム核三つ、ゴブリン耳二つで……三千六百円だね」

「……三千六百円」

 現金を手にした瞬間、胸がじんわり熱くなる。

 たった数十分で、バイト数時間分。

(……本当に、小遣いになった)

 喜びも束の間、壊れた剣のことを思い出して青ざめる。

「す、すみません! これ、壊しちゃって……!」

 職員は苦笑して言った。

「あら、この剣ガタが来ていたのかしら?ごめんなさいね!大丈夫だった?...でも、こんな粉々に...?」

「は、はい!大丈夫でした。ありがとうございます。」

 ほっと胸を撫で下ろした。



 ついでに併設ショップを覗く。

 剣や鎧が並んでいて、どれも輝いて見える。

「この鉄剣で三万二千円……」

「この革鎧は五万か……」

 値札を見ただけで目眩がした。

 今日の稼ぎ三千円台なんて、とてもじゃないが足りない。

(……しばらくはレンタルでいいや)

 そう苦笑しながらショップを後にする。



 帰り道、夕焼けに照らされながら封筒を握りしめた。

「……悪くないな」

 冒険者ランクはFのまま。でも確かに一歩踏み出した気がした。

 財布の中の三千六百円が、不思議と重みを与えてくれる。

 その夜、鏡を覗き込むと――昨日よりさらに肌がつやつやしていた。

「……やっぱこれ、いらなくね?」

 俺はまた布団の上で頭を抱えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
美肌、ニキビヅラにならないのがイイね♪
【「……やっぱこれ、いらなくね?」】 スキル美肌について今後の伏線ならごめんですが ネタにしては微妙だと思いました。 別にあって困ることもないしいらないと感じるような余分なことも起こってなくね? この…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ