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模擬戦当日。
広大な訓練場は、すでに一年生でいっぱいだった。観客席には二年、三年の生徒まで顔を出し、熱気に包まれている。
(……思ってたよりも、ずっと注目されてるな)
悠真はざわつく空気に飲まれそうになりながらも、拳を握って気持ちを落ち着けた。
「静粛に!」
担任の声が響く。
「今回は一年生同士の模擬戦だ。ただしカードは完全抽選ではない。能力の相性やタイプを考慮し、自然な組み合わせになるよう調整してある」
前に用意されたクジ箱に、一年生が次々と歩み寄っていく。引いた番号が電光掲示板に映され、そのたびに歓声やどよめきが起きた。
「黒瀬 vs 炎系攻撃型」
「うわ、派手すぎる!」
観客席から声が上がる。黒瀬は口の端を吊り上げた。
「外村 vs 二島」
「壁がどこまで持つか勝負だな!」と笑いが広がり、外村は「余裕だ!」と胸を叩いた。
やがて、悠真の番が回ってきた。
くじを引いた瞬間、訓練場が一瞬静まり返る。
電光掲示板に大きく映し出された文字。
《相原悠真 vs 神谷京介》
「神谷って……一年代表候補のあの神谷か!?」
どよめきが爆発する。
(代表候補……? つまり、学年トップクラスの相手ってことか……!)
悠真の胸に、冷たい緊張が走った。
実況役の教師が紹介する。
「神谷京介。能力は【鋼鉄硬化】。全身を鋼に変え、攻防一体の体術に昇華する男だ。並の攻撃では通用しない。さらに十支族とのパーティ経験もあり、“鉄壁の守り”と呼ばれている」
観客席から歓声が上がる。
「クラッシャー vs 鉄壁!?」「力 vs 守りの構図だ!」
その時、遅れて訓練場の扉が開いた。
「……っ、来たぞ!」
ざわめきが一層大きくなる。アシュベルが姿を現したのだ。
教師が一言添える。
「本日より、アシュベル家の次男も復帰する。帰省のため不在だったが、模擬戦から出場する」
ざわつく観客。
「やっぱり戻ってきたか!」「これで一気にレベルが変わるぞ!」
悠真は視線を感じ、振り返る。
鋭い雷光のような眼差し。アシュベルが短く言い放った。
「……潰されるなよ、クラッシャー」
観客の熱狂が渦を巻く中、悠真は拳を握りしめた。
(避けられない……ここで、俺の“拳”を試されるんだ)
初戦から注目必至のカード。
訓練場全体が、爆発するような歓声に包まれていた。




