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「お前たち一年生にも、いよいよ模擬戦の順番が回ってきた」
担任が教壇に立った瞬間、教室の空気が一気に張り詰めた。
黒板にチョークが走る音がやけに大きく響く。
「形式は二種類。ソロ戦とチーム戦だ。どちらを選ぶかは自由だが――今回の模擬戦は“校内ランキング戦”の前哨戦として扱われる。序列に直接は反映されないが、教師や上級生の目に止まれば評価に繋がる。観客席には二年、三年も見に来る予定だ」
教室にざわめきが広がる。
「つまり、注目を浴びる試合だ」
その言葉に、生徒たちの顔が一気に熱気を帯びた。
「待ってたぜ」
黒瀬が椅子を鳴らして立ち上がる。「これで一年の序列が決まる」
「俺の壁が輝く時だな!」と外村が拳を突き上げるが、即座に「すぐ壊れるだろ!」とツッコミが飛んできて教室に笑いが起きた。
白鳥は緊張した面持ちで「支援型はチームでしか輝けないけど……やるしかない」と小さく呟く。
真田は机に肘をつきながら「無茶せず、いつも通りのパフォーマンスでいこうぜ」と冷静。
教室全体に期待と不安が入り混じった熱気が充満していく。
俺は――机に置いた手を強く握りしめた。
(俺は仲間に合わせる戦い方は、まだできない。俺が証明すべきは……“俺自身が戦える”ってことだ)
「お前の試合、絶対盛り上がるぞ」
真田が笑いかけてきた。
「観客席は俺の壁で守っとくから安心しろ!」
外村がふざけて言って、クラスが再び笑いに包まれる。
俺も少し笑ったが、すぐに真剣な顔に戻る。
(盛り上げる……なんて俺にできるのか? いや、やるしかない)
「模擬戦は、ただ力を見せつける場所じゃない。自分の力量を最大限発揮して相手と試合をする場所。」
不意に凛の声がした。静かながら、確かな響きを持つ言葉だった。
「――どう戦うか。それが試されます」
その目は真っ直ぐで、俺の胸を射抜いた。
(そうだ……俺はまだ“戦い方”を模索しているんだ。だからこそ、ここで試される)
「模擬戦は明日だ。しっかり準備して臨め」
担任の言葉に、教室全体がざわめきと高揚感に包まれる。
机に置いた拳を見つめながら、俺は心の中で呟いた。
(ついに……試されるんだ。俺の拳が、俺自身が――)




