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――上級生の模擬戦を見たあの日から一週間。
俺の生活はすっかり「訓練中心」に変わっていた。
朝は寮で目覚め、すぐに篠原先生の道場へ。昼は授業を受け、放課後も道場。夜はクタクタになってベッドに倒れ込む。そんな日々が続いた。
最初は顔面に直撃して床に転がっていたスピニングバー。
それが今では――。
――ヒュンッ!
横薙ぎを腰をひねってかわし、反転した回転棒をしゃがみ込んで避ける。
「おぉ! 一発も当たってねぇじゃん!」
見学席の真田が身を乗り出し、手を叩いて歓声を上げた。
「……ふむ」
篠原先生も珍しく感心した声を出す。
「普通なら何ヶ月もかかる、下手したら年単位の感覚の掴みを一週間で体得するとはな。体の反応速度が異常に伸びている」
俺も自分で驚いていた。
(動きが……見える。体が勝手に反応してる……?)
最初は“速すぎる”としか思えなかったバーが、今はスローモーションに見える。
「次は竹刀だ」
篠原先生が数本の竹刀を手にし、俺に迫ってくる。
――パシンッ!
右肩をわずかに落として打ち込みを流す。
――パシパシンッ!
腕で受けていたはずの衝撃を、今は肩と腰の連動で逸らしている。
「最初は竹刀を真っ二つにしていたのに……もう流せるか」
篠原先生が目を細めた。
汗で前髪が額に張り付き、息が荒くなる。
(俺……一週間でここまで……? いや、これはただの努力じゃない。体そのものが、異常な速さで成長している……)
最後は寸止め。
分厚い板を前に置かれ、「砕くな。表面で止めろ」と指示される。
「いきます……!」
深呼吸し、拳を振り抜く。
――ドゴッ!
空気を裂く音とともに拳が走り、板の表面でギリギリ止まる。
周囲に木屑がぱらりと舞い、板には蜘蛛の巣状のヒビだけが残った。
「……止まった」
自分の拳を見下ろし、思わず息を呑む。
しかし、黒瀬は静かに呟いた。
「……一週間でここまで化けるか。やはり怪物だな」
凛は一歩引いた場所から俺を見つめていた。
(ただの怪物じゃない。努力を重ねて、力を制御し始めている。だからこそ――本当に恐ろしい)
訓練を終えた俺に、篠原先生が言った。
「相原。粗削りだが、力を学ぶ姿勢は確かだ。この一週間でそれを証明した。――胸を張れ」
膝に手をつき、汗だくのまま俺は拳を握りしめる。




