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「次の実技からは一年も模擬戦に参加してもらう。チーム戦かソロ戦か、両方選んでもいいが……体力的にはハードだぞ」
担任の一言で、教室が一気にざわめいた。
「おっしゃ! 俺はチームで壁役やる!」と外村が勢いよく手を挙げ、クラスが笑いに包まれる。
「支援型は必然的にチームよね」と白鳥が落ち着いた声で言い、黒瀬は腕を組んだまま鼻で笑った。
「当然ソロだ。俺の刃がどこまで通じるか、試す機会だからな」
クラスの視線が自然と悠真へと集まる。
「相原は?」「チーム戦つってもみんな決まってるところあるもんなぁ」
「クラッシャー相原のソロ戦とか、見たい!」と期待と野次馬根性が入り混じった声が飛ぶ。
悠真は迷った。だが心の奥底から湧き上がるものがある。
(……俺には、まだ仲間に合わせた戦い方なんてできない。なら――ソロしかない)
「……俺は、ソロに出ます」
その言葉に、ざわめきが一段と大きくなる。
真田が小声で「俺が一緒にチーム戦出てあげたかったんだけど、もう決まっててな。ごめんな」と肩を叩いてくれた。
外村は「次は一緒にチーム戦出ような!」と言ってくれる。
悠真の胸は、不思議と軽かった。
決めたのだ。逃げ場のない道を選ぶと。
放課後、悠真は道場へ直行した。
「ソロ戦を選んだか」
篠原先生は竹刀を手に、悠真を見据える。
「ならば――“避けられない戦い”に備えろ。基礎を越えた実践を見せてやる」
竹刀が風を裂いた。
悠真は反射的に腕を突き出し、――バキッ! と嫌な音が響く。竹刀が真っ二つに折れていた。
「違う!」篠原の声が鋭く飛ぶ。「力任せに受けるな! 流せ!」
次の瞬間、新しい竹刀が襲いかかる。
横薙ぎ、突き、打ち下ろし。矢継ぎ早に叩き込まれる一撃一撃を、悠真は必死で体を動かしてかわす。
「ぐっ……!」頬にかすり、火花が散ったような衝撃。
避けきれない。だが、先ほどとは違う。腕で受け止めず、肩で流す。足を滑らせてかわす。
「……できた!」一瞬、竹刀が空を切った。
その手応えに、悠真の胸が熱くなる。
だが休む暇はない。篠原は次の竹刀を叩き込む。
「その一瞬の余裕が命を繋ぐ。忘れるな!」
打ち込みが続く。
汗が滝のように流れ、視界が揺れる。
それでも――一撃、二撃、三撃。確かに受け流せている。
最後に篠原が竹刀を振り下ろした。
悠真は半歩下がり、肩を滑らせて衝撃を逸らす。
――ドスッ。竹刀が床を打った。
「……っは、はぁ……!」
膝をつき、息を荒げる悠真。
篠原は竹刀を下ろし、静かに言った。
「お前は怪物の力を持っている。だが、それを“人間の技”で制御しなければ、ただの化け物だ。――その違いを忘れるな」
悠真は拳を握りしめ、汗で濡れた道場の床を見つめた。
(俺は……化け物じゃない。戦い方を学べば、“人間として”戦えるはずだ)
「ランキング戦……必ず掴んでみせる」




