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訓練を終えて道場を出ると、教室の廊下はすでにざわめきでいっぱいだった。
「もうすぐ校内ランキング戦だぞ!」
「今年は十支族が二人もいるからな。絶対に荒れる」
耳に飛び込んでくる声は熱気に満ちていて、悠真は思わず足を止める。
(……いよいよ、“本番”が来るのか)
教室に入ると担任が立ち上がり、黒板を指で叩いた。
「静かにしろ。今日はランキング戦について説明する」
一瞬でざわめきが収まり、全員が前を見た。
「帝都探索学園の目玉行事――校内ランキング戦。
形式は二つ。ソロ戦とチーム戦だ」
担任の声が響く。
ソロ戦:個人の力を試す真っ向勝負。
チーム戦:三人一組で連携を競う。
勝敗はポイント制、勝ち進むほど序列が上がる。
「成績上位者は遠征やスポンサー推薦の対象になる。全国配信もされ、視聴者は数十万を超える。つまり――学校の“看板”を背負う試合だ」
その一言で、クラス全体の空気が張り詰める。
黒瀬が腕を組んで言い放つ。
「ソロ戦で名を上げる。相原、逃げるなよ」
「壁で全員止めてやる! ……今度こそ!」
外村の宣言に、クラス全体が爆笑。
白鳥は真剣な表情で頷いた。
「支援型でも順位は付く。だからこそ、私も全力でやらなきゃ」
真田は苦笑しながら金属片を弄ぶ。
「俺はチーム戦だな。順位より生存率重視で行くわ」
他の生徒たちも「今回は上に食い込みたい!」と声を上げ、教室は一気に熱気に包まれた。
真田がタブレットを開き、「これ見てみろよ」と去年の決勝映像を再生した。
画面の中では、雷撃が会場全体を覆い尽くし、観客の悲鳴と歓声が入り混じる。
実況の声が熱を帯びる。
『来たァァァ! アシュベル家の長男だ! 止められる者はいない!』
観客席は総立ち。紙吹雪のようにエフェクトが舞い、全国に生配信されている光景が広がる。
「やばすぎる……」と誰かが息を呑む。
悠真は拳を握りしめた。
(あれに比べたら……俺はただの未熟者でしかない...!)
「ソロで出るやつは?」
「俺はチームだ!」
「いやお前は足引っ張るから外せ!」
教室のあちこちで、グループごとの小競り合いが始まる。誰と組むかで揉める声が響き、教室はますます混沌とする。
悠真は黙ってその様子を見ていた。
(俺と組みたい奴なんているのか……? いや、そもそもチームに空きはあるのか?)
胸の奥に冷たい孤独感が広がる。
静かな声がその心を切り裂いた。
「……ランキング戦は避けられません」
振り向くと、凛が真っ直ぐこちらを見ていた。
「ここでは、力を持つ者は必ず試される」
悠真は言葉を飲み込み、その瞳の真剣さにただ頷くしかなかった。
担任が板書を叩いて告げる。
「次の実技から“模擬戦形式”に入る。心して準備しておけ」
クラス全体が息を呑む。
悠真は机に座りながら、拳を見つめる。
(……逃げられない。なら、俺もやるしかない)
拳を強く握りしめた瞬間、胸の奥に小さな炎が灯った。




