表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/182

41

 放課後の訓練場は熱気に包まれていた。

 ランキング戦を目前に控え、生徒たちはそれぞれの異能を試し、戦い方を磨いている。広い室内は異能の閃光で彩られ、轟音や爆ぜる音が絶え間なく響いていた。

 ――これが帝都探索学園の実力。

 悠真は息をのんだ。地元では想像もつかないほど多彩で、派手で、完成度の高い能力ばかり。

「風刃!」

 黒瀬が鋭く腕を振る。次の瞬間、空気が刃と化し、模擬壁に真一文字の切れ込みが走った。

「おぉ……!」と歓声が上がる。

 その隣では真田が金属片を磁力で操っていた。

 掌をかざすと、砂鉄のような細かな破片が宙に浮き、盾の形を作る。

「攻撃を受けても、これで防げる。攻守どっちでも使えるんだ」

 彼は器用に金属を操りながら、自分でも苦笑する。

 一方で、白鳥は支援役らしく光を放ち、練習で作った浅い切り傷をすぐに治してみせた。

「ありがとう! すげー助かる!」

「ううん。これが私の役割だから」

 仲間からの素直な称賛に、白鳥は照れ笑いを浮かべる。

「守るぞぉぉ!」

 外村が勢いよく両手を突き出した。光の壁がドンと展開される――が、直後にピシッと亀裂が走る。

「……あっ」

「早すぎんだろ!」

「いやいや! 次はもっとうまくいくから!」

 訓練場は笑い声に包まれ、緊張感が少し和らいだ。

 そんな中、悠真は拳を握りしめたまま、ただ立ち尽くしていた。

 仲間たちは異能を武器にして「戦術」を作っている。攻撃、防御、支援……それぞれが役割を形にしていた。

 だが――自分には何もない。

(俺には、拳しかない。剣を持っても壊すだけ。策も工夫もなく、ただ殴ることしか……)

 胸の奥がずしりと重くなる。

「なぁ相原」

 真田が声をかけてきた。

「お前はどう戦うんだ?」

「……俺? えっと……拳で」

 一瞬の沈黙のあと、数人が顔を見合わせる。

 黒瀬が腕を組み、低く笑った。

「拳? 策も武器もなしに、ただ殴るだけ? そんなやり方、いずれ限界が来る」

「いや逆にシンプルで強そうじゃね?」

 外村が食い気味に割り込む。

「壁だって一発で粉砕だ! むしろ最強じゃん!」

「お前は黙ってろ!」と総ツッコミ。

 白鳥は少し心配そうに眉を寄せる。

「……でも本当に、それで大丈夫なの?」

 その声に、悠真は返す言葉を失った。

 みんなの目には、畏怖と好奇心が入り混じっている。どう言い繕っても、自分の異常さは隠せない。

 そのとき、凛が静かに口を開いた。

「……工夫や策も大事。でも、圧倒的な“力”もまた、一つの戦術です」

 短い一言だったが、訓練場の空気が一変した。

 悠真は驚いて凛を見たが、彼女はすぐに視線を外し、再び結界強化の訓練へと戻っていった。

(……俺のやり方でも、いいのか?)

 胸の奥がほんの少しだけ温かくなる。

 夜。寮の部屋で机に置いた拳サポーターを見つめる。

(工夫も秘密兵器もない。けど、この拳だけは裏切らない)

(壊すためじゃなく、勝つために振るう――それが俺の戦い方だ)

 固く握った拳に、熱が宿っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
殴るや蹴るなら、格闘技学べや。何にも工夫しないのか?
障壁の奴は良くここに入れたなって思う
これがハイファンタジーなら身体能力強化だけで魔法が使えない奴は「投石」で空中の敵などへ遠距離攻撃するのが普通なんだけど。ローファンタジーだと休みの日に河原の石を拾い集めて丈夫なバッグに入れて持ち歩くん…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ