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放課後の訓練場は熱気に包まれていた。
ランキング戦を目前に控え、生徒たちはそれぞれの異能を試し、戦い方を磨いている。広い室内は異能の閃光で彩られ、轟音や爆ぜる音が絶え間なく響いていた。
――これが帝都探索学園の実力。
悠真は息をのんだ。地元では想像もつかないほど多彩で、派手で、完成度の高い能力ばかり。
「風刃!」
黒瀬が鋭く腕を振る。次の瞬間、空気が刃と化し、模擬壁に真一文字の切れ込みが走った。
「おぉ……!」と歓声が上がる。
その隣では真田が金属片を磁力で操っていた。
掌をかざすと、砂鉄のような細かな破片が宙に浮き、盾の形を作る。
「攻撃を受けても、これで防げる。攻守どっちでも使えるんだ」
彼は器用に金属を操りながら、自分でも苦笑する。
一方で、白鳥は支援役らしく光を放ち、練習で作った浅い切り傷をすぐに治してみせた。
「ありがとう! すげー助かる!」
「ううん。これが私の役割だから」
仲間からの素直な称賛に、白鳥は照れ笑いを浮かべる。
「守るぞぉぉ!」
外村が勢いよく両手を突き出した。光の壁がドンと展開される――が、直後にピシッと亀裂が走る。
「……あっ」
「早すぎんだろ!」
「いやいや! 次はもっとうまくいくから!」
訓練場は笑い声に包まれ、緊張感が少し和らいだ。
そんな中、悠真は拳を握りしめたまま、ただ立ち尽くしていた。
仲間たちは異能を武器にして「戦術」を作っている。攻撃、防御、支援……それぞれが役割を形にしていた。
だが――自分には何もない。
(俺には、拳しかない。剣を持っても壊すだけ。策も工夫もなく、ただ殴ることしか……)
胸の奥がずしりと重くなる。
「なぁ相原」
真田が声をかけてきた。
「お前はどう戦うんだ?」
「……俺? えっと……拳で」
一瞬の沈黙のあと、数人が顔を見合わせる。
黒瀬が腕を組み、低く笑った。
「拳? 策も武器もなしに、ただ殴るだけ? そんなやり方、いずれ限界が来る」
「いや逆にシンプルで強そうじゃね?」
外村が食い気味に割り込む。
「壁だって一発で粉砕だ! むしろ最強じゃん!」
「お前は黙ってろ!」と総ツッコミ。
白鳥は少し心配そうに眉を寄せる。
「……でも本当に、それで大丈夫なの?」
その声に、悠真は返す言葉を失った。
みんなの目には、畏怖と好奇心が入り混じっている。どう言い繕っても、自分の異常さは隠せない。
そのとき、凛が静かに口を開いた。
「……工夫や策も大事。でも、圧倒的な“力”もまた、一つの戦術です」
短い一言だったが、訓練場の空気が一変した。
悠真は驚いて凛を見たが、彼女はすぐに視線を外し、再び結界強化の訓練へと戻っていった。
(……俺のやり方でも、いいのか?)
胸の奥がほんの少しだけ温かくなる。
夜。寮の部屋で机に置いた拳サポーターを見つめる。
(工夫も秘密兵器もない。けど、この拳だけは裏切らない)
(壊すためじゃなく、勝つために振るう――それが俺の戦い方だ)
固く握った拳に、熱が宿っていた。




