40
実技の授業が終わり、訓練場から教室へと戻ると、クラスはまだざわついていた。
「なあ、次って模擬戦だよな?」
「ってことは……ランキング戦に関わってくるのか?」
「やべぇ、俺まだ準備できてねぇんだけど!」
耳に飛び込む単語に、俺は首を傾げた。
(ランキング戦……? なんだそれ)
担任が教壇に立ち、手を叩いて場を静める。
「はい、落ち着け。ちょうどいい機会だから説明しておくぞ」
生徒たちの視線が一斉に向けられた。
「帝都探索学園には、校内ランキング戦という制度がある。定期的に行われる模擬戦をベースにしていて、勝敗や実力をもとに序列がつけられる」
ざわっと空気が揺れた。俺は思わず背筋を伸ばす。
「上位者はそのまま“校内序列”に名を連ねる。成績や遠征の選抜、推薦にも直結する。さらには、全国配信で取り上げられることもあり、スポンサーやギルドから声がかかることもある」
「逆に、下位に沈む者は……『努力を怠っている』と見られる。ここにいる限り、誰も逃げられん」
ごくりと唾を飲んだ。
(序列……? 努力してもしなくても、全部見られてるってことか)
「お、俺の出番ってわけだな」
腕を組んだ黒瀬が、ニヤリと笑って俺を見た。
「お前とは必ず当たる。そのとき、力の差をはっきりさせてやる」
「え、えぇ……」俺は思わず視線を逸らす。
(いきなりフラグ立てられたんだけど……俺、模擬戦なんてやったことないんだが!)
「まあまあ、焦んなって」
隣で真田が笑いながら肩を叩いた。
「俺なんか少しでも順位上げられたら満足だ。安全第一でいくさ」
白鳥は小さく手を挙げた。
「支援型もランク付けされるのよね……? 私、誰かに守ってもらうの前提だから……」
「おう! そこは任せろ!」
外村が胸を張る。だが次の瞬間、クラスの誰かが「いや、お前の壁すぐ壊れるだろ!」と突っ込み、爆笑が起きた。
その中で、凛だけは笑わなかった。静かに俺を見ている。
「……ランキング戦は避けられません」
低い声で言う。
「ここでは、力を持つ者は必ず試される。それが、この学園の掟です」
その眼差しに射抜かれた気がした。俺は思わず言葉を失う。
(避けられない……か。やっぱり、そうなんだよな)
「いいか」担任が再び声を張った。
「力をひけらかすためじゃない。ここは“学ぶ場所”だ。次回の実技からは模擬戦形式に入る。――心して準備しておけ」
生徒たちが一斉にどよめき、誰もが戦いに向けて熱を帯びていく。
俺は机に座りながら拳を握った。
(俺が……ここで力を示さなきゃいけないのか。大丈夫なのか? でも――やるしかない)
胸の奥で小さく呟きながら、迫り来る戦いの気配を感じていた。




