39
「今日はここまでだ」
担任の声が響くと、訓練場にざわめきが広がった。
「……マジで壁、粉々になったよな」
「“軽く”とか絶対嘘だろ」
「やばすぎるって、あれ」
生徒たちの視線が一斉に悠真に注がれる。居心地の悪さに、悠真は慌てて両手を振った。
「い、いや、ほんとに軽くやったんだって!」
「じゃあ本気出したらどうなるんだよ」
「訓練場ごと吹き飛ぶんじゃね?」
笑い混じりの冷やかしと、半分本気の畏怖。クラス全体が浮き足立っていた。
そこへ、腕を組んだ黒瀬 蓮が悠真の前に歩み出た。
短く切りそろえた黒髪が揺れ、鋭い眼差しが突き刺さる。
「……お前、さっきのが“軽く”なわけないだろ」
悠真は「いや、その……」と口ごもる。
黒瀬はさらに踏み込んだ。
「偶然であの威力が出るはずがない。……いずれ、俺と模擬戦やろう。お前がどんな奴なのか、この目で確かめたい」
周囲が一斉に「うわ、来た!」「校内ランキング戦もそろそろだもんな」と盛り上がる。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 俺は別に……」
悠真の弁解はざわめきにかき消された。
「いやいや、その前に俺の壁を試してくれ!」
外村 一馬が胸を張って割り込んでくる。
「俺の結界なら、お前の拳も止められるはず――!」
バキッ、と勢い余って床に出した防御壁にヒビが入る。
「おい今壊れただろ!?」
「まだ俺、殴ってないからな!?」
爆笑するクラスメイトたち。悠真も思わず苦笑した。
「相原くん、本当に制御できてるの?」
白鳥 朱音が心配そうに声をかける。柔らかい光をまといながら、怪我したら治す準備ができているような雰囲気だ。
「だ、大丈夫……のはず、です」
「“のはず”って何よ……」
「まあまあ、今日は初日だろ」
真田 陽翔が場を収めるように笑顔で言った。
「焦る必要なんてないさ」
ふと横を見れば、天城 凛が静かにこちらを見つめていた。表情は読めないが、その瞳には真剣な色が宿っている。
(……やっぱり、この人は普通じゃない)
彼女の内心が、視線の強さから伝わってくる気がした。
担任が一歩前に出て、ざわめきを抑えるように言った。
「力をひけらかすのが目的じゃない。ここは学ぶ場所だ。……相原、次の実技では模擬戦もある。そのときに、力のすべてを示せ」
「……はい」
悠真は緊張混じりに頷いた。
クラスが解散し、廊下を歩く中でも視線を感じる。
「クラッシャー相原、次は誰とやるんだ?」
「黒瀬と戦ったら絶対盛り上がる」
期待と畏怖が混ざった空気が背中にのしかかる。
悠真は拳を握りしめ、胸の奥で呟いた。
(……怖い。でも、ここから逃げたくはない。この学園で――俺は前に進むんだ)




