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転校の手続きなんかは、俺が思っていたよりもずっと早く終わった。きっと帝都探索学園が、裏でいろいろ済ませておいてくれたんだろう。
気づけばもう、俺は寮に荷物を運び込み、学園指定の制服に袖を通していた。
鏡に映る自分の姿を見て、思わず息を呑む。
地元の公立校とはまるで違う、黒を基調にしたシャープなデザイン。襟にはエンブレムは「探索者養成」の象徴。
(これが……新しい生活の始まりか)
◇
帝都探索学園は、やっぱり桁違いだった。
学園の敷地のすぐ隣には、巨大なダンジョンゲートがそびえ立っている。ここから直接ダンジョンに挑めるようになっているらしい。
校舎は近代的なガラス張りで、まるで企業ビルみたいだし、体育館に相当する訓練場は地元ギルドより広い。
(日本最高峰の探索者養成学校……。やっぱり本物だな)
◇
教室の扉を開けると、全員の視線が一斉に集まった。
「今日は転校生を紹介するぞ」担任が声を張る。「この時期で珍しいが、すぐに分かるだろう。――相原、前に」
心臓がうるさいほど鳴る。
俺は深呼吸してから、黒板の前に立った。
「相原悠真です。よろしくお願いします」
一瞬の沈黙。次の瞬間、ざわめきが広がった。
「……え、クラッシャー相原!?」
「本物だ……」
「東京遠征で下層にいたって噂の……」
凛が窓際で、静かにこちらを見つめている。その瞳にどんな意味が込められているのかは分からない。だが、特別な視線であることだけは伝わった。
「黒瀬、相原の隣の席にしてやれ」
担任に呼ばれた男子が、腕を組んで俺を見た。
「黒瀬蓮だ。……噂ほどか、楽しみだな」
挑発めいた視線。すぐ後ろの生徒が「また黒瀬はすぐ挑発する」と苦笑する。
「真田、案内役を頼む」
「了解っす。俺は真田陽翔。まあまあ、緊張すんなよ。すぐ慣れるから」
人懐っこい笑顔に少し救われる。
休み時間になり、前の席の女子が振り返った。
「相原くん……肌、綺麗ね」
「お、おい朱音、それいきなり言うなって!」と周囲が笑う。
白鳥朱音。柔らかな雰囲気に、地元にはいなかったタイプだ。
「俺は外村一馬! 守るときは任せろ!」
元気いっぱいに名乗りを上げる男子。
「お前、この前すぐ壁壊されたじゃん!」とクラス中が総ツッコミ。
どうやらコメディ担当らしい。
(……地元とは全然違う。強い奴ばかりで、空気も引き締まってるように感じる)
不安と同時に、ほんの少し胸が高鳴る。
(ここなら……俺の力を、学べるのかもしれない)
担任が手を叩く。
「次の授業は訓練場で異能実技だ」
クラスが一斉にざわつき、立ち上がる。
俺も流れに飲まれて歩き出した。
(――帝都探索学園。俺の新しい生活が、始まった)




