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東京から地元に戻った日の夜。
玄関を開けた瞬間、居間から両親の気配が伝わってきた。
「……担任の先生から連絡があった」
父が真剣な表情で言った。
「帝都探索学園からスカウトが来たそうだな」
母も心配そうに身を乗り出す。
「本当なの、悠真?」
「……うん」
俺は短く答えた。曖昧な返事しかできなかった。
夕飯の席につくと、重苦しい空気のまま箸が進む。
やがて父が口を開いた。
「父さんたちも心配なんだ。東京遠征の事故、ニュースでも大きく取り上げられていた」
「悠真が無事で良かったけど……でも、悠真のおかげでみんなも無事だったって。母さん、誇らしかったのよ」
母の言葉に、胸の奥が少し温かくなった。
「……俺は、普通に過ごしたいんだ。でも……この力と、ちゃんと向き合っていきたい」
自分でも驚くくらい、素直な言葉が口をついた。
父は真剣な眼差しで俺を見つめる。
「帝都探索学園は全国から人材を集める場所だ。力のある者が正しく学ぶには適していると思う」
「佐伯くんのこと、覚えてるでしょ?」
母が続けた。
「いい環境で学んで、今は立派にやってるじゃない。悠真にも、ちゃんと支えてくれる人が必要なの」
父はゆっくりと言葉を選ぶように口を開く。
「無理に押しつけるつもりはない。けど……俺たちは、悠真が一人で悩んで苦しむのを見ていたくないんだ」
俺は箸を置き、俯いた。
「……俺、自分の力が怖いんだ。どうしてこんなに強いのか分からないし、クラスメイトとは差を感じてしまう」
「だからこそ、ちゃんと学べる場所に行った方がいいのよ。安心して力を試せるところで」
母の声は柔らかかった。
「選ぶのはお前だ。でも、どんな道を選んでも俺たちは悠真の味方だ」
父の言葉に、胸が詰まった。
食卓に静かな時間が流れる。
俺は心の中で繰り返した。
(転校……。俺が選ぶべき道は――)
その夜、天井を見つめながら、葛藤と期待がないまぜの思いを抱えて目を閉じた。




