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週明けの教室。扉を開けた瞬間、ざわつきが広がった。
「昨日の配信、まとめサイトに載ってたぞ」
「クラッシャー相原マジでヤバい」
笑って声をかけてくる生徒もいれば、露骨に視線を避ける生徒もいる。
(……やっぱり普通には戻れないか)
胸の奥が重くなった。
一緒に潜った友人たちは、明るく肩を叩いてきた。
「相原がいたから助かったわ。ありがとな!」
「また頼むな!」
素直な感謝に思わず笑いそうになったが、続いた言葉が胸に刺さる。
「でもさ、俺らが一生懸命戦ってる横でワンパンは反則だろ」
冗談めかした苦笑。
俺も苦笑で返しつつ、心の中で呟いた。
(やっぱり……能力の差があると、馴染むのは難しいのかもしれないな)
休み時間、別のクラスの生徒がわざわざ顔を出してきた。
「相原って……あのクラッシャー?」
「すげーじゃん!」と憧れのように言う声と、
「やばすぎるだろw」と笑い混じりの声。
その反応は、まさに俺が最初に十支族を見たときと同じだった。
尊敬と恐怖。遠くの存在として扱う視線。
廊下を歩くたびに、ひそひそと声が追いかけてくる。
放課後、担任に呼び止められた。
「相原。少し来てくれ」
職員室で向かい合うと、担任は書類を机に置いた。
「帝都探索学園からのスカウトが正式に通達された」
思わず息を呑む。
「……俺が、帝都探索学園に……?」
「君が決めることだ。断っても構わない。ただ、声がかかるのは滅多にないことだ」
担任は言葉を区切って、真剣な目を向けてくる。
「このまま地元で学ぶより、能力を体系的に学べるのは確かにあちらだ」
返事が喉につかえて出てこなかった。
帰り道。夕焼けの下、ひとり歩きながら考える。
(このまま地元で仲間と潜るのも悪くない。だけど、俺の力はこの学校ではレベルが違いすぎているのも事実……)
(転校すれば、もっと大きな舞台で自分を試せるかもしれない。でも、それは“普通”から完全に離れることになる)




