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そんな桁外れの基礎ステータスを持ちながらも、それに気づかないまま中学を卒業し――。
俺、相原悠真は高校生になった。
入学式の朝。
制服に袖を通して鏡に映る自分を見て、小さく笑う。
「よし、今日から高校生か……」
進学先は地元の公立高校。勉強もそこそこ、部活もほどほど。一番しっくり来る選択だ。
同級生の佐伯は、少しいい高校に進学した。
異能評価がそこそこ高くて推薦もあったらしい。
前向きで夢を語るやつだから、あっちで活躍してる姿が目に浮かぶ。
「佐伯ならきっとやれるよな」
俺はそんな風に素直に思っていた。
新しいクラスは明るい雰囲気だった。
自己紹介では、みんな自分の能力と夢を堂々と語っていく。
「俺、《硬化》です! 絶対に探索者になってランキング上位を目指します!」
「《透視》です。ダンジョン探索に役立てたい!」
拍手と歓声。
俺の番になり、立ち上がる。
「えっと……相原悠真です。能力は……《身体能力上昇》です」
一瞬の沈黙。
でもすぐに「おー」「普通だな」ってざわめきが返ってきて終わった。
別に笑われたわけでもない。
俺も気にせず、席に腰を下ろした。
(まあ、Eランクは誰でも持ってる能力だし。大きな夢はないけど、小さなダンジョンで小遣い稼ぎできたら十分だよな)
そんな風に、前向きとも諦めともつかない考えを抱いていた。
数日後。
ホームルームで担任が「異能ライセンス制度」と大きく黒板に書いた。
「お前たちは高校生になった。これからは公式に『ダンジョン探索ライセンス』を取得できる。ギルドに登録して講習を受ければ誰でも入れる。収益はモンスター素材の売却……そして配信だ」
教室がざわつく。
「今は探索の様子を必ず配信する仕組みになっている。安全確保と透明性のためだが、同時に大きな収入源にもなる。ランキング上位者はスター選手のように扱われる」
「うおお!」「夢あるな!」
クラスメイトたちが目を輝かせる。
(……プロは無理でも、小銭稼ぎくらいなら俺もアリかもな)
そう思うと、ちょっとだけ胸が高鳴った。
放課後。
友達に誘われてギルドに行った。
ロビーには巨大なモニターがあり、リアルタイムで探索者の配信が流れている。
スポンサー広告やランキング表が並び、人で賑わっていた。
「うわぁ、テレビで見るより迫力あるな!」
「俺らもここで登録できるのか! 早く潜りたい!」
みんな興奮気味だ。
俺も「すげーな」と素直に感心した。
(こういうのをガチでやるのは俺には無理だろうけど……。高校生になったんだし、小さなダンジョンでバイトみたいに稼げるなら悪くないな)
そう思いながらモニターを見上げると、画面の中で上位探索者が鮮やかにモンスターを倒していた。
かっこいいな、と普通に思った。
帰り道。
友人が笑顔で言う。
「なあ悠真、一緒にダンジョン潜ろうぜ!絶対楽しいって!」
「……ああ、そうだな」
俺はにこっと笑って返事をした。
その足取りは軽く、心の中に小さな期待が芽生えていた。
(平凡なEランクでも、ちょっとくらいならやれるかもな)
――もちろん、俺の“基礎ステータス”が既に常識外れの桁になっていることなど、本人はこれっぽっちも知らない。




