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東京本部の地上へと戻った瞬間、クラス全員が膝から崩れ落ちた。
泣き笑いの声があちこちで響く。
「助かった……!」「生きてる……!」
俺も胸を撫で下ろしたが、背中にずっと刺さるような視線を感じていた。
天城凛。
そしてアシュベル。
あの救援部隊の中心にいた二人が、俺をじっと観察している。
「君たち、こちらへ」
職員に案内された部屋には、大きなモニターが据えられていた。
端末に映し出されたのは、俺たちの配信アーカイブ。
全員が息を呑む。
オーガの棍棒が振り下ろされ、俺の体に直撃する。
だが映像の俺は、傷一つなく立ち上がっていた。
「……通常なら致命傷だ」
職員の声は低い。
「監督冒険者の防御を抜いた攻撃を受けて、無傷とは……説明がつかない」
「防御系の異能か?」
「いや、彼のカードには《身体能力上昇》とあるが……」
控室にいた探索者や職員が首を傾げる。
クラスメイトたちも口を開く。
「……相原、お前、ほんとに《身体能力上昇》だけなのか?」
コメント欄にも文字が溢れる。
《物理無効?》
《いや身体強化Sってこんなレベル?》
《避けない男=クラッシャー確定だろ》
職員がこちらに顔を向けた。
「相原君、念のため確認する。君の能力は?」
「えっ……」
喉が渇く。視線が集まる。
「……《身体能力上昇》です。S判定でしたけど、それだけで……」
「……だが映像の君は、回避も防御もなく直撃を受け続けている」
「身体能力の強化で説明できる範囲を、明らかに超えている」
「そ、それは……俺にもわからないんです!」
声が裏返る。
「怖くて避けようとしたのに……体が動かなくて……!」
職員たちが互いに視線を交わした。
「……詳細な検査が必要だな」
「本部の測定器で、改めて能力を解析しよう」
アシュベルは腕を組み、冷静に呟く。
「解析、か。妥当だな。あれは単なる身体強化じゃない」
凛は黙ったまま、ただじっと俺を見つめ続けていた。
何も言わないが、その眼差しが俺の心を抉る。
(……検査? 俺、どうなっちゃうんだ)
配信アーカイブの再生数は、すでに爆発的に伸び続けている。
画面の端には「閲覧数上昇中」の文字が点滅していた。
ネット掲示板ではすでに、新たなスレッドが乱立していることだろう。
「……俺、本当にただの高校生のままでいられるのか」
拳を握る手が、汗で濡れていた。




