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日本探索者連盟・東京本部。
その広大なビルの中に、けたたましい警報が鳴り響いた。
「緊急アラート! 下層に学生の反応を確認!」
「映像確認……これは……40階層のモンスターだ!」
管制室にいる職員たちが一斉に青ざめる。
モニターに映るのは、怯えた学生たちと、血を吐きながら必死に巨躯を受け止める監督冒険者の姿だった。
「監督が押されている……これでは持たないぞ」
「学生が……全滅しかねない!」
ざわめきが一気に広がった。
同じ建物内、控室に待機していた「帝都探索学園」の生徒たちの耳にも、騒ぎはすぐに届いた。
名だたる十支族を含む学園の上位生徒たち。その中で、ひときわ鋭い眼差しをした少女が立ち上がった。
「助けに行きます。あのままでは死者が出ます」
凛然と告げたのは――天城凛。
日本が誇る十支族のひとりであり、帝都探索学園の代表格でもある少女だった。
「危険すぎる!」
「下層だぞ!? 学生を出すなんて前代未聞だ!」
周囲の生徒たちが口々に反対の声を上げる。
だが、凛は一歩も退かない。
「だからこそです。待っていたら間に合いません。命は、時間を待ってくれない」
静かに、しかし鋭く言い切る凛。その姿に誰も言葉を返せなかった。
「……やれやれ、面倒ごとに首を突っ込むな、凛」
椅子から立ち上がったのは、ドイツ・アシュベル家の少年。
雷を思わせる金色の瞳が、不快げに細められている。
「面倒ごとではありません。命が懸かっているんです」
凛はきっぱりと言い返した。
「……勝手にしろ。ただし、足は引っ張るなよ」
その態度に反感を覚えつつも、周囲は彼らが向かうことを止められなかった。
十支族には――特別な権限がある。
こうして、帝都探索学園の救援部隊が動き出した。
同時に、本部のベテラン冒険者たちも立ち上がる。
鎧をまとい、武器を携える姿は、学生とはまるで異なる重厚感を放っていた。
「40階層モンスターならBランク以上の編成が必要だ」
「学生が混じるのは異例だが……十支族が動くなら抑えにはなる」
短い言葉の中に、事態の深刻さがにじみ出ていた。
一方その頃、下層。
赤黒い苔の匂いが漂う洞窟で、悠真たちはなおも必死に生き延びていた。
「くそっ……動けない……」
「いやだ……死にたくない……!」
クラスメイトは戦意を喪失し、叫ぶばかり。
監督冒険者は口から血を吐きながら、それでも巨体のモンスターを押し返していた。
悠真は拳を握りしめ、震える目でそれを見つめる。
(……やっぱり、俺は異常だ。みんなとは違う……)
息を呑む彼の耳に、配信コメントが流れ込んでくる。
《救援部隊編成中らしい!》
《帝都探索学園の十支族も動いたって!》
《でも到着まで時間かかるってよ……》
「……まだ来ないのか……」
呟きは、暗い洞窟に虚しく吸い込まれていった。




