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 沈黙が、長く続いた。

 誰もが口を開けず、それでも全員が――同じ結論に近づいていた。

 黒瀬が、乾いた笑いを漏らす。

「……なぁ。

 あれ、“敵”って呼んでいいのか?」

 神谷は首を横に振った。

「違う。

 “敵かどうかを選ぶ段階にすらいない”」

 レオンは腕を組み、遠くを睨んだまま言う。

「……ARCが言ってた深淵姫リグレア。ってやつか?

 あれはやばいな」

 その言葉が、全員の背筋を冷やした。

「確認、か……」

 悠真が呟く。

 その瞬間――

 通信端末が、短く振動した。

 ノイズ混じりの音声。

『――こちらARC。

 第零班、応答せよ』

 凛の声だった。

『魔王領全域で、異常な魔力低下と再配列を観測。

 ……今、そちらに“上位存在”が顕現しているわね?』

 レオンが小さく笑う。

「察しがいいな。

 さっきまで“世界”が立ってた」

『……やっぱり』

 一拍置いて、

 凛ははっきり告げた。

『撤退を勧告する。

 これは“探索フェーズ”じゃない』

 神谷が即答する。

「賛成だ。

 今ここで続けるのは、無謀すぎる」

 黒瀬も頷いた。

「正直、俺……生きて戻れただけで奇跡だと思ってる」

 全員の視線が、悠真に集まる。

 判断を委ねるように。

 悠真は、ゆっくりと息を吸った。

(……来るな、ってことか)

 拒絶ではない。

 警告でもない。

 “今は違う”

 ただ、それだけ。

「……撤退しよう」

 その一言で、

 全員が動き出した。

 レオンが肩をすくめる。

「賢い選択だ。

 あれは――本番の相手じゃねぇ」

 黒瀬が苦笑する。

「本番が来るの確定なの、怖すぎだろ」

 撤退ルートを確保しながら、

 悠真は一度だけ、振り返った。

 もう、そこに影はない。

 だが――

 見られている感覚だけが、消えない。

(……次は)

 次は、もっと準備が必要だ。

 知識。仲間。

 そして――自分自身。

 通信が安定する。

『第零班、帰還準備を確認。

 転移座標、固定完了』

 悠真は、短く答える。

「……ただいま、準備中だ」

 光が立ち上がる。

 世界が、再び引き剥がされる感覚。

 だが今回は――

 逃げではない。

 これは、

 次に踏み込むための撤退だ。


「まだ、“時”ではない」

 静寂が戻った魔王領に、

 彼女はひとり立っていた。

 風も、魔力も、

 すべてが元の流れへと戻っていく。

 ――だが。

 “余韻”だけが、消えない。

「……ゼロ」

 名を呼ぶだけで、

 空間がわずかに軋む。

 かつて、

 炎と共に消えた魔王バルクザーム。

 あれは戦いではなかった。

 策略でも、力比べでもない。

 “因果の脱落”

 世界の計算式から、

 存在そのものが削除された。

(あの時点で、気づくべきだったのね)

 リグレアは、細い指で虚空をなぞる。

「あなたは――

 この世界の勇者でも、災厄でもない」

 どちらにもなり得る。

 だからこそ、厄介。

「まだ、完全ではない」

 理は安定していない。

 ゼロシンクは揺らぎ、未成熟。

 もし今、手を出していれば――

 勝敗以前に、世界が壊れていた。

 影の中から、

 魔族参謀が声を潜めて進み出る。

「……追撃は?」

 リグレアは即答した。

「不要よ」

 そして、静かに告げる。

「彼は“戻る”」

 地球へ。

 安全な場所へ。

 だが――

 それは逃走ではない。

「次に来るときは」

 紅い瞳が、遠くを見据える。

「彼自身が、

 こちら側を選ぶ準備を終えたとき」

 リグレアは、微笑んだ。

「……それまでは、育てなさい」

 魔族参謀が息を呑む。

「育てる、とは……?」

「世界ごと、よ」

 彼女の背後で、

 魔王領の塔が静かに脈打つ。

「ゼロは、刃ではない」

「選択そのものなのだから」

 影が、再び溶ける。

 戦争は、まだ始まらない。



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