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どうにか上層での戦闘を終え、俺たちのクラスは休憩所――安全エリアに到着した。
広大な洞窟の一角が光石で明るく照らされ、岩を削って作られたベンチやテーブルが並んでいる。
その周囲には簡易な露店が立ち並び、ポーションや食料、予備の装備が売られていた。
「すげぇ……ゲームみたいだ」
思わず口から漏れる。
ギルドが許可した業者が、ここで実際に商売をしているらしい。
冷えた水や食べやすい携帯食が並び、生徒たちは一斉に買い求めていた。
隣のスペースに陣取っていたのは、地方の強豪校の一団だった。
彼らはモンスター素材をきちんと袋に詰め、端末で売却額を計算している。
動きが手慣れていて、同じ一年生とは思えない。
「お前ら、上層であれだけ手こずってたのか?」
その中の一人が鼻で笑い、こちらを見下すように言った。
クラスの連中がむっとした顔を見せる。
「余計なお世話だ」
「こっちはこっちでやってんだよ」
言い返しながらも、どこか力の差を突きつけられたような空気が漂った。
「……で、これ見たか?」
強豪校の男子が端末を掲げてきた。
そこには配信の切り抜きが映っていた。俺が拳でゴブリンを吹き飛ばす瞬間――。
《素手のが強いクラッシャー》
《また壊したwww》
コメント欄がそれで埋まっている。
「……これ、お前だろ?」
「え、えっと……そ、それは……ただの偶然で……!」
慌てて否定するが、周囲の視線が一斉に集まってくる。
クラスの仲間でさえ、どこか気まずそうに目を逸らした。
(やっぱ……見られてたか……!)
「偶然であんな威力出せるかよ」
強豪校の男子が笑いながら吐き捨てる。
空気がピリッと張りつめ、クラスの数人が立ち上がった。
その瞬間――
「やめろ。ここは安全エリアだ。喧嘩なら外でやれ」
監督冒険者が低い声で制した。
その一言で火が消えたように、双方が黙り込む。
強豪校の連中は「つまんね」と鼻を鳴らし、そっぽを向いた。
胸の奥に残ったのは、やり場のない悔しさだった。
俺は露店でポーションを買い、ベンチに腰を下ろす。
周囲では笑い声や怒鳴り声が入り混じり、雑多な熱気に包まれていた。
(……やっぱりおかしいって思われてる。俺自身ですら分からないんだ。どうすりゃいいんだよ……)
拳を握りしめる。
だが遠征は、まだ始まったばかりだ。
――誰も予想していない“事件”が、このあと待ち受けているとも知らずに。




