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 週末の早朝。

 まだ眠気が残る体を叩き起こし、荷物を背負って家を出た。

 胸の奥が妙にざわついている。

 ――今日から東京遠征が始まる。

 校門にはすでにクラスメイトたちが集まっていた。

 校庭には大きなチャーターバスが停まり、ガヤガヤとした声が響いている。

「見ろよ、この新しい剣! 親に無理言って買ってもらったんだ!」

「俺は鎧だな! 高かったけど、これで配信映え間違いなし!」

「絶対ランキング伸ばすぞ! うちの班でトップ狙える!」

 誰もが装備を見せ合い、未来の栄光を語り合っている。

 その輪の外で、俺はレンタル装備の袋を抱え、少しだけ肩をすぼめた。

(……みんな、キラキラしてるな。俺は……壊すだけの装備しか持ってないのに)

 気まずさを抱えながらも、バスに乗り込む。車内は期待と興奮で満ちていた。



 数時間後。

 窓の外にそびえ立つ建物を見て、思わず息を呑んだ。

「でっけえ……」

 そこは「日本探索者連盟・東京本部」。

 近未来的なガラス張りの巨大建築。その敷地には複数のダンジョンゲートが並び、警備兵や冒険者たちが慌ただしく行き交っていた。

 普段の地元ギルドなんて、まるで児童館に思える。

 俺たち以外にも、全国から集まった学生がぞろぞろと到着していた。

 パーティ単位で談笑しながら歩く者。端末で配信設定を確認する者。すでに場慣れした雰囲気を漂わせている。

「おい、あれって登録者一万人超えてるやつじゃね?」

「マジか……やべぇ」

 聞き慣れない他校の名前が飛び交い、ただの学生とは思えないオーラを放っていた。



 だが、その中でも群を抜いて注目を集める集団がいた。

 ――帝都探索学園。

 統一された紺色の制服に身を包み、堂々と歩く姿は他の生徒とは明らかに格が違う。

 自然と周囲の視線が集まり、道が開けていく。

 誰もが「あれが、あの学園の生徒か」と一目で理解してしまう威圧感。

 俺もその中のひとりに目を奪われた。

 黒髪をきりりと結び、冷静な眼差しで周囲を見渡す少女。

 ――天城凛。

 以前配信で見た、結界を展開してモンスターの群れを吹き飛ばした少女だった。

(……本物だ。あの映像の……)

 周囲でも小さなざわめきが起こる。

「十支族の一人……マジで同い年かよ……」

「すげぇ……オーラが違う……」

 遠くから見ただけで、彼女が特別な存在だと分かった。

 胸の奥がざわつく。羨望か、不安か。自分でもよく分からなかった。



 やがて、全校の参加者が大ホールに集められた。

 壇上に立つのは黒服の屈強な冒険者。マイクを手に取り、場を見渡す。

「新人諸君。まず第一に、安全が最優先だ。無茶はするな」

 その声は会場の奥まで響き渡り、騒いでいた生徒たちが一瞬で静まる。

「ただし、これはお前たちの“力試し”でもある。

 各校ごとに行動してもらうが、事故の際は監督冒険者がサポートに入る。

 必ず安全エリアを拠点にし、命を軽んじるな」

 真剣な言葉に、背筋が自然と伸びた。

 遠足や修学旅行の延長ではない。命を賭けた“実習”なのだと、改めて突きつけられる。

 俺の胸に、緊張がどんどん膨らんでいく。



 説明を終え、各校ごとに班分けと準備が始まった。

 ホールを出ると、正面に巨大なゲートがそびえ立っている。

 ゆらめく光の向こうに、東京ダンジョンの深淵が広がっていた。

 俺はギルドカードを強く握りしめる。

(――東京ダンジョン。俺の力が、試される)

 恐怖と期待を胸に、ついに東京遠征の幕が上がった。



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― 新着の感想 ―
レンタル品いうても弁償代は結構するんじゃないの? 壊す前提で持ってきてる意味がわからん
既にランクも映像での記録もあるのに 今更バレる心配をしてるのはなんなんやろね 割り切って開き直れないのはわかるけど どうにかしようって感じは感じられないね
今話では「俺の力が、試される」という感情があるのに、前話では「素手の力がバレるわけには、、、」みたいな強迫観念にとらわれてるのって心情的にとても矛盾を感じる。
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