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ミランダの指示で、軍用の魔導バイク──
黒い金属フレームに青い魔導ラインが走る、
SFめいたホバーバイクが用意された。
「乗って。都市まではすぐよ。」
エンジンではない、魔導石の脈動音が低く響く。
青白い光を尾に引きながら、
第零班と巡回隊は荒野を横断していった。
地面は黒い砂に覆われているが、
魔導バイクの裏で結界が形成され、砂煙も上がらない。
黒瀬が風を切りながら叫んだ。
「やっべ……未来じゃんこれ!」
神谷も珍しく声を上げる。
「加速が……鋼鉄化してても落ちそうなんだが!」
研究員は振り落とされないように必死でハンドルに掴まる。
「こ、これが……魔導機関……す、すごい……!」
悠真は風に当たりながら、前方へ視線を向けた。
近づくにつれ、都市の輪郭がはっきりしていく。
城壁は高層ビルのようにそそり立ち、
表面には魔導文字がびっしりと刻まれている。
その上から──
青い結界膜が“空に貼りつくように”広がっていた。
巨大なシールドドーム。
「すげぇ……全部、結界なのか……?」
悠真は思わず呟いた。
ミランダが横のバイクから声を飛ばす。
「これは防衛結界。
魔王領からの侵攻を防ぎ、市民の生活を守っているわ。」
「魔王領……」
黒瀬が小声で繰り返す。
「やっぱそっちの世界、魔王が普通に脅威なんだな……」
やがて、都市の入口が見えてきた。
金属と魔導石が融合した巨大なゲート。
その上ではドローン型の魔導機が旋回し、
下では軍人とギルド職員が行き交う。
結界ロードに沿って走ると、
ゲートが自動で開き、青い光がスキャンを始める。
ミランダが説明した。
「魔力反応、体温、害意判定を自動でスキャンしてる。
市民保護のための最低限の処理よ。怖がらないで。」
「いやいや普通に怖ぇって……」
黒瀬が顔をしかめる。
ゲートを抜けた瞬間──
アルセリアの夜景が広がった。
整然と並ぶ魔導街灯。
空を飛ぶ結界ドローン。
街路樹の根元には魔石ターミナルが光り、
大通りには魔導バイクや浮遊車が行き交う。
近未来の大都市。
でも、空気は確かに魔導に満ちている。
「……やべぇ……」
神谷が息を呑む。
「ここが……異世界なんだな……」
遠くのビルの頂上が、
淡く金の光を放っていた。
ミランダがバイクを止め、振り向く。
「ようこそ──
アルセリア魔導都市へ。」
背後には、彼女の部隊と冒険者連盟の隊員が並ぶ。
「これから観測局ARCで事情を聞く。
ノヴァも呼ばれるはず。準備はいい?」
悠真は深く息を吸い、頷いた。
「……ああ。」
こうして第零班は、
ついに異世界文明――
アルセリアの中心へ足を踏み入れた。




