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 週の半ば。

 ホームルームで担任が教卓に立つと、教室が自然と静まった。

 ただならぬ空気を感じたのか、生徒たちの背筋もピンと伸びる。

「今週末――いよいよ東京遠征だ」

 その言葉に、教室中が一斉にざわめいた。



「マジか、もう今週かよ!」

「やべえ、準備間に合うのか!?」

「新宿ダンジョンだろ!? 本物の中層、見られるのか!」

 興奮の声があちこちから上がり、椅子が軋む音や机を叩く音で教室が騒がしくなる。

 担任は手を上げて、ざわつきを抑えながら淡々と続けた。

「集合は金曜朝、学校からチャーターしたバスで東京へ向かうぞ。宿泊を伴う二泊三日。

 班ごとに監督冒険者がつき、安全エリアを拠点に活動することになる。

 ルールは簡単だ――無茶をするな。いいな?」

「「「はいっ!」」」

 クラスの返事は妙に力がこもっていた。

「ランキング上げるチャンスだな!」

「俺らの配信、絶対伸ばすぞ!」

 野心を隠さず口にするやつらの声が教室を包む。

 浮き足立った空気の中で、俺は机に手を置き、小さく息をついた。

(Eランクになったばかりで……本当に大丈夫か、俺)



 放課後、遠征に向かう生徒が地元のギルドに集められた。

 会議室に並んだ椅子に座ると、職員がホワイトボードに資料を貼り出す。

「遠征に必要なものはリスト化されています。まずは必須アイテム。ポーションと通信端末は各自必ず持参。

 それから、緊急帰還石。……ただしこれは高価で、使用制限もあります。下層からの帰還には保証がありません」

 ざわめく生徒たち。

 俺も思わず眉をひそめる。

(……つまり、保険があるようで、ないんだな)

「遠征中は監督冒険者が常駐します。安全エリアも複数あるので、無茶さえしなければ死ぬことはまずありません」

 そう言われてようやく、生徒たちの表情が少し緩んだ。



 説明が終わると、そのままギルド内のショップを覗く流れになった。

 展示されているのは、有名ブランド武具や高級素材で作られた装備の数々。

「うおっ、見ろよ! これ、防刃繊維入りジャケットだって!」

「魔獣皮のブーツもある! やっべえ、カッコよ!」

 値札には平然と数十万、百万円単位の数字が並ぶ。

 財布を握りしめた同級生たちは「バイト代貯めといてよかった!」と盛り上がっていた。

 俺はと言えば――

(……どうせ俺が使ったら壊すだけだしな)

 値札を見ただけで背筋が冷え、購入は早々に諦めた。

 結局レンタルで済ませることにする。

(遠征で素手の力がバレないように、立ち回らないと……)



「お前、またレンタルか?」

「壊すなよ、クラッシャー!」

 冷やかし混じりの声に肩をすくめる。

 配信コメント欄でもじわじわと《クラッシャー》なんてあだ名が増え始めていた。

 同級生たちはパーティ単位で装備を揃えて笑い合っている。

 その輪から外れ、一人でレンタル窓口に並ぶ俺。

 背中に、なんとも言えない疎外感が重くのしかかった。



 準備を終え、ギルドを出ると夜空が広がっていた。

 街灯の隙間から見える星を見上げ、カードを握りしめる。

(遠征はすぐそこ。十支族も、全国から集まる連中も……。怖い。けど、俺も挑むしかない)

 胸の奥に、弱々しいけれど確かな炎が宿るのを感じた。

 俺はその灯火を抱えながら、家路へと歩き出した。



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― 新着の感想 ―
今分かっていること。 ・能力は周囲にバレている。 ・その能力は、私生活で悪影響は無い。 ・モンスターから、傷を負う事が無いのは確認済み。 ・バレた事で何かデメリットがあるわけではない。 主人公は何…
いったいこの主人公は何の強迫観念に迫られているんだろう、、、
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