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通路を進みながら、黒瀬がふと前方を指差した。
「ほら、また出た。……あれジンガーじゃね?」
暗闇から現れたのは、
地球のダンジョンでも見かける“ジンガー”とよく似た小型モンスター。
ただし動きが妙に変だ。
神谷が呟く。
「……見た目はほぼ一緒だが……動きが違うな。
地球のやつよりなんというか、柔らかい感じだ。」
黒瀬が軽く風刃を飛ばすと、
ジンガーはぬるっと避けるように半歩ズレる。
「うわ、キモッ。避け方なんだよ今の。
でもまぁ、似てるから戦い方も似たようなもんか。」
神谷が前へ出て鋼鉄の拳を握りしめる。
「いつもよりちょっと強い、くらいだな。
これなら対処はできる。」
黒瀬の追加の風斬が走り、ジンガーは崩れ落ちた。
倒れたジンガーが霧散するのを見ながら、
黒瀬はぽりぽりと頬をかく。
「……で、結局ここって地球のダンジョンとほぼ同じって認識でいいんだよな?
いまんとこ、スライムもジンガーもそのままじゃん。」
神谷も頷く。
「ダンジョンの構成とかは違うが、結構似てるな。
地形の把握もしやすい。
違う点と言えば——」
黒瀬が笑いながら言う。
「なぁ悠真、
あのバグみてぇなステータスだよな?」
悠真は苦笑するしかない。
「……俺も驚いてるよ。」
研究員も端末を見ながら溜息をつく。
「環境はほぼ地球と同じ、
モンスターもほぼ同じ、
構造もほぼ同じ……
異世界要素として今のところ確定なのは“ステータスの存在”くらいですね。
それと……進むほど魔素密度が微増している点かと。」
黒瀬が顔をしかめる。
「いや魔素増えてるのは聞きたくなかったわ……
強いの出てくるフラグじゃん……」
黒瀬が風を上方へ送り、枝分かれした通路をスキャンする。
「とりあえず出口探すぞ。
新宿ダンジョンと同じで上から下にできているダンジョンっぽいわ。」
風が通路を通り抜け、
気流の変化を黒瀬が読み取る。
「——前方に大きく空気が抜けてる。
多分“出口”の方向だな。
いつものダンジョン構造とほぼ一致してる。」
神谷が安心したように息を吐く。
「やっぱ黒瀬の風は便利だな。
この世界でも通用すんのかよ。」
黒瀬は得意げに鼻を鳴らす。
「風は世界共通だわ。
異世界になったからって風向きが変わるわけねぇだろ。」
悠真が横で静かに笑う。




