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黒瀬と神谷のステータスが展開され、
研究員が慌てて記録を取っている最中――
ふ、と空気が揺れた。
悠真の視界にも、
遅れて光の枠が立ち上がる。
「あ、悠真のも来たか!」
「お前の能力って身体能力上昇だろ?
ステータスどれくらい上がんだ?」
黒瀬と神谷が覗き込んだ数秒後――
二人の顔が固まった。
研究員の端末から警告音が鳴り響く。
「……えっ――?」
相原悠真( Lv???)
【能力】身体能力上昇(E)/ 美肌 / ゼロシンク
【筋力】 9,999,999
【体力】 9,999,999
【敏捷】 9,999,999
【魔力】 9,999,999
【知力】 9,999,999
「…………は?」
「おい待て……これ、どういう……?」
研究員は震える声で呟く。
「レベルの……上昇値が……それに能力が3つ...?」
黒瀬が口元を引きつらせる。
「いやいやいや……身体能力上昇(E)で、これ……バグじゃねぇの?」
悠真は混乱の中、
ただ静かに光の文字を見つめていた。
黒瀬はウィンドウを二度見して、
額に手を当てた。
「いや、美肌ってなんだよ!?
明らかにおかしい能力混じってんだろ!」
神谷は真面目な顔で言う。
「……ゼロシンクってのは、なんだ?
能力3つ持ちは前例がねぇぞ。」
黒瀬は半ば呆れ、半ば怖がりながら悠真を見る。
「なぁ悠真。
お前……どんだけ化け物なんだよ。」
悠真は困惑したまま
光のウィンドウを握りつぶすように見つめた。
(……ゼロシンク。あの時、ノヴァが言ってたやつか。)
その時、凛の声が通信から入った。
『なにがあったの!?』
黒瀬と神谷が同時に叫んだ。
「凛さん! 悠真のステータスが!!」
悠真は――
自分だけ“この世界の枠外”に立っていることを
初めて自覚した。
凛の声は、先ほどまでの落ち着いたトーンとは違っていた。
『黒瀬、神谷。状況を説明して。
ステータスってなに?』
黒瀬がすぐに答える。
「それが、門を超えた先で俺らもモンスターを倒して強くなった感覚があったんです。その時黒瀬がふざけてステータスって呟いたんだ。」
「そしたらゲームみたいにステータス画面が出てきたんだよ。空中にな。俺らの数値は平均が100を少し上回っているくらいなんだが...」
「悠真のステータスが
その……数値が、全部カンストで……」
神谷も補足する。
「能力欄に“ゼロシンク”ってのもあるし。
身体能力上昇と……美肌とか……なんかよくわからん能力もあったが」
一瞬、通信の向こうで凛が息を呑む気配があった。
『ゼロシンク……?
聞いたこともない能力名ね……』
凛の声は、
黒瀬でも神谷でもなく――
悠真に向けられたものだった。
『……悠真。体調に異変は?』
「大丈夫だ。むしろ調子がいいくらいだよ。」
『……そう、なら……いいけど。』
彼女は悟られまいと声を整えている。
だが、微かな緊張が隠しきれていなかった。




