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門を超えた先、そこに広がっていたのは――
拍子抜けするくらい、“普通”のダンジョンだった。
石壁。
薄暗い通路。
時折きらめく魔石の灯り。
地面に散らばる岩片、湿った空気の気配。
黒瀬がぽかんと口を開いた。
「……え、普通にダンジョンじゃん。
もっとこう……異世界風の森とか、空が割れてるとか、
そういうヤバいのかと思ったんだけど……。」
神谷も眉をひそめる。
「確かに……雰囲気がいつもと変わらねぇな。
重力も、空気も……ほとんど地球と変わらん。」
研究員たちは慌てて機材を展開する。
> 「酸素濃度、地球環境と近似……」
> 「温度、湿度も異常なし。」
> 「粒子密度は若干高いが、毒性なし……?」
黒瀬が肩をすくめる。
「まぁ、そっちのほうが助かるんだけどな」
神谷が冗談めかして言う。
「おいおい……地球のダンジョン、パクられてんじゃないか?」
「地球がパクった説もあるわな」
門を抜けた先の“普通のダンジョン”を確認した第零班は、
慎重に奥へと進み始めた。
黒瀬が前を歩き、風で索敵。
神谷は鋼鉄化した腕で盾を持ち前衛を張る。
研究員は震える手で端末を構えている。
そして――
悠真だけが、少しの違和感を覚えていた。
その異変に、最初に気づいたのは黒瀬だった。
「……おい、悠真。
なんかお前、髪色変わってね?」
神谷も横目で確認する。
「大丈夫か?」
悠真は軽く首を振る。
「平気だ。ちょっとだけ…いや、調子はいい。」
通路を曲がった瞬間、
黒いゼラチン状の小型モンスターがぬるりと現れた。
黒瀬が前に躍り出る。
「よし、一発目は軽くいくぞ!」
風刃が通路を裂き、
スライムはあっけなく真っ二つに。
続けて神谷が踏み込み、
鋼鉄の拳で残りを潰した。
“ぷちん”という音とともに、
スライムは霧のように消える。
その瞬間、黒瀬の目が見開かれた。
「これか、話にあった異世界のモンスターを倒したら強くなるかもみたいなやつ。」
神谷も拳を握りしめる。
「体、軽い。
出力……確実に上がってる。」
黒瀬が苦笑する。
「なんだよこれ、ゲームのレベルアップか?
こういうとき”ステータス”って言うんだよな、みんな」
そこで――
起きた。
突然、空間に“光の枠”が浮かび上がった。
何もない空間に、文字が――
いや、“情報”が現れたのだ。
「……おいおいおいおい。見えてるよな、これ?」
「あぁ……見えてる。マジかよ……!」
研究員の端末が異常反応を示す。
> 「……これは……!視覚的現象!
脳に直接……?いや、空間投影!?
どういう仕組みだ……!?」
空中に浮かぶ光の文字列。
神谷京介(Lv1 → Lv2)
【能力】鋼鉄硬化(B)
【筋力】 130 → 135
【体力】 110 → 115
【敏捷】 90 → 95
【魔力】 50 → 55
【知力】 120 → 125
黒瀬 蓮(Lv1 → Lv2)
【能力】風刃操作(B)
【筋力】 125 → 130
【体力】 115 → 120
【敏捷】 120 → 125
【魔力】 90 → 95
【知力】 90 → 95
黒瀬が叫ぶ。
「……マジで“ステータスウィンドウ”じゃん。
ゲームのやつだろコレ!」




