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全員がゲート前に整列すると、
篠原が一歩前に出て、厳しい声で口を開いた。
「……これから“最終ブリーフィング”に入る。」
霧が薄く揺れ、門の光が脈打つ。
篠原はその光景を一瞥し、続けた。
「まず第一に――帰還を最優先すること。
任務遂行より、生存が優先される。」
重い言葉に、第零班全員が頷く。
「第二に――撤退は恥ではない。
未知への適応は、その時の判断に委ねる。
無理をして命を失えば、調査は永遠に閉ざされる。」
神谷でさえ真剣な表情で聞いていた。
「そして第三に――通信についてだ。」
篠原が手にした端末を見せる。
「門の向こうでは通信が途絶える可能性が極めて高い。
そのため……これから試験運用を行う。」
黒瀬が小さく息を呑む。
篠原が研究員に合図を送ると、
重厚なケースが開き、
四脚式の小型ローバーが姿を現した。
ローバー“E-3”は、昆虫のような軽快な足取りで地面を進む。
動作はすべて事前プログラムされた
「固定ルート」「固定動作」のみ。
篠原の声が重く響く。
「――E-3、作動開始。」
ゲートの前に差し掛かると、
赤光が脈動し、霧が揺れた。
ローバーが門へ触れ、そのまま通過していく。
数秒後、モニターにノイズ。
「……音声反応、あり……!」
研究員が叫ぶ。
スピーカーから、
ザザ……ガ……ギ……ギ……
と、何かが擦れるような音が響く。
そして――
断片的な映像。
赤黒い砂。
「これは……少しノイズがあるが、しっかり見えています!」
研究員が興奮を隠せない。
――だが20秒後、通信は途絶えた。
緊張が走る。
しかし次の瞬間。
「……ッ! ビーコン反応、戻りました!」
「戻ってきた……ローバー、生存判定“可”!」
霧の向こうから、ローバーが固定ルート通りに戻ってくる。
黒瀬が思わず口笛を吹いた。
「マジかよ……帰ってきやがった……!」
篠原は静かに頷く。
「――“往復が可能”と証明された。
そしてもうひとつ。」
彼はモニターを指差す。
「門の近くであれば、通信が可能だ。
ならば……」
凛が続きを引き取る。
「――ローバーを異世界側の“中継機”として置けば、
こちらとの通信が維持できる可能性がある。」
研究班がざわついた。
篠原は短く言う。
「安全とは言えん。
だが、“可能”だ。」




