160
「……あなたは優しいわ。
誰かが行かなきゃって、そう思ったんでしょう?」
その言葉に、悠真の動きがピタリと止まった。
しばらく沈黙が落ちる。
悠真はゆっくりと視線を落とし、
絞り出すように口を開いた。
「……いや。
もちろん、行くべきだとは思った。
誰かがやらなきゃって。
レオンさんのことも……放ってはおけない。」
そこで一度、言葉が切れる。
呼吸を整えるように小さく吸って、
再び凛を見た。
「でも、それだけじゃない。俺は、知りたいんだ。」
「……知りたい?」
「うん。」
悠真は続けた。
声は静かだが、その奥に揺るぎない意志があった。
「俺が何者なのか。
なんでこんな力があるのか。
あの“ゼロ”って呼ばれた理由も……全部。」
少し笑う。
自嘲でもなく、不安でもなく――決意の笑みだった。
「帝都探索学園に転校したのも、
自分が何なのか知りたかったから。
ずっとずっと、胸につっかえてた。」
凛は息を呑む。
「だから……これは、俺のためでもあるんだ。
誰かのためだけじゃない。
――俺自身のルーツを知りたい。」
沈黙。
だがその沈黙は、もう拒絶の沈黙ではなかった。
凛はゆっくり目を伏せ、
そして小さく頷いた。
「……そう。
なら、止められないわね。」
顔を上げたその瞳には、覚悟と寂しさと――信頼があった。
篠原も静かに息をつく。
「……自分のために選んだなら、それでいい。
ただし――必ず戻ってこい。」
悠真ははっきりと頷いた。
「もちろんです。」
翌日。
G.O.D本部の特別ミーティングルームで、
異界調査のための新しい部隊――
**「G.O.D調査第零班」**の結成が正式に発表された。
ホログラムにメンバー一覧が映し出される。
【第零班メンバー】
・相原悠真(前衛/観測適応候補)
・黒瀬武(前衛・索敵)
・神谷京介(防御・前衛)
・G.O.D研究班4名(環境解析、地形スキャン、エネルギー計測)
・支援AI《G-Assist01》(データ解析・戦闘補助)
凛は地上本部からサポートチーフとして全通信を管理する。
緊張した空気の中、篠原が口を開いた。
「……この任務は、想像以上に危険だ。
正直まだ戻ってこれる確証もない。向こうのダンジョン?がどういうところかもわからない...」
悠真は息を呑んだ。
篠原は続ける。
「まぁ、入ってヤバそうだったらすぐ戻ってきても大丈夫だ。」
凛が言葉を補う。
「――今、向こうに最も近づける可能性があるのは、あなた。」
黒瀬が腕を組む。
「俺、異世界ってやつ行ってみたいんだよな。結構そういう作品好きなんだよ。」
神谷も肩をすくめた。
「俺も好きなんだよ。だから志願したとこある。」
悠真は静かに頷く。
「……俺が確かめてくる。」
その言葉は迷いなく、
しかしどこか優しい響きを持っていた。
篠原は満足げに頷き、
最後にホログラムを切り替えた。
【任務開始地点:新宿ゲート】
【出発予定:明朝 06:00】
「――第零班。
未知の世界を、頼んだぞ。」




