15
遠征が来週に迫った放課後、俺はまたギルドに足を運んでいた。
とにかく「今のままじゃ不安だ」という気持ちが背中を押していた。
窓口にカードを差し出すと、受付の職員が苦笑いを浮かべる。
「また来たのか、相原君。真面目だな」
「は、はは……まあ、その……」
(バレるのは嫌だけど、実績を積まないと落ち着かない……)
軽く頭を下げ、レンタル武器を受け取って上層へ向かう。
スライムはもう問題にならなかった。
一撃で沈む。
むしろ問題は、その一撃を受け止めきれない武器の方だ。
ゴブリン三体に囲まれたときも、剣を振り下ろした瞬間――
――バキィィッ!
嫌な音と共に、また刃にヒビが走る。
「……はいはい、またね」
もう驚きもしない。苦笑して剣を収め、素手でゴブリンを叩き伏せる。
拳を振るうたびに、相手が壁際に吹き飛んで沈んでいく。
それを見て、視界の端にコメントが浮かんだ。
《素手のが強くね?》
《これ新人?》
《武器いらないの草》
「……っ!」
心臓が跳ねる。
視聴者数は十数人。以前より増えている。
それだけで妙に落ち着かなくなり、俺はわざとらしく「ふぅ」と息を吐いた。
(やばい、気をつけないと。これ以上は……)
それでも探索は無事に終わり、いつもの素材を集めて帰還する。
窓口で素材を差し出すと、職員が端末を操作しながら首を傾げた。
「……ほう。条件を満たしたな。相原君、今日からEランクだ」
「え、えっ……俺が?」
渡されたカードを見下ろす。そこには《冒険者ランク:E》の文字。
実感が湧かず、ただオロオロとするしかなかった。
「普通ならもっと時間がかかる。だが――君の戦闘データを見ると、やはり規格外だな」
そう言って職員はにやりと笑い、指を突きつけてきた。
「ただし! Eランクになったからには、武器を壊したらちゃんと料金いただくからな!」
「ひぃっ!」
背後からクスクスと笑い声が漏れる。
周囲の冒険者が「クラッシャー昇格おめでと」「今度は請求書が飛ぶぞ」と茶化してくる。
俺は情けなく肩をすくめるしかなかった。
ギルドを出て夜道を歩く。
カードには確かに「Eランク」の文字。
小さな達成感はある。でも同時に――
(……武器を持つ意味があるのか? でも素手で戦ってたら、いつか絶対バレる……)
街灯に照らされた自分の拳を見つめ、ため息をついた。
美肌や瞬間記憶なんて役立たずなスキルしか持っていない。
この拳に頼るしかないのだと分かっていても、不安は消えない。
(遠征にはもっと化け物みたいな連中が集まる。俺なんかが通用するのか……)
それでも、立ち止まるわけにはいかない。
(……やれるところまでやるしかない)
夜空を見上げ、次の決意を固めた。




