表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
159/189

158

 数日後。

 G.O.D本部には、各国支部から定期観測データが送られてきていた。

 モニターに並ぶ報告は、どれも似たような数値で埋め尽くされている。

 > 「門の安定率:変化なし」

 ――つまり、“門”はこの世界に定着したということだった。


 あの日、新宿ダンジョンで門が出現し、

 異世界のモンスターを討伐してからというもの――

 各国の十支族が口を揃えて感じていた“違和感”が、

 いまや“確信”へと変わりつつあった。

 > 「モンスターを倒すたび、身体が軽くなる感覚がある」

 > 「疲労の回復が異様に早い」

  > 「異能の出力が上がっている」

 篠原がデータを見つめ、静かに息を吐いた。

 「……やはり、“異世界のモンスターを倒すと強くなる”という――

  信じられない話が、現実になりつつある。」

 彼の背後のモニターには、各国の実験報告映像が再生されていた。

 十支族以外の研究員が、実験的に小型モンスターを討伐した際の記録。

 討伐前後の身体測定データが並べられ、

 筋出力・神経伝達速度・異能反応率、

 すべての数値が明確に上昇していた。

 篠原は腕を組み、低く唸る。

 「……これは偶然ではない。

  世界が、変わる。」


 重厚な雲が垂れ込めるドイツ。

 市街地の外れ――封鎖区域“雷門域”。

 空気そのものが帯電しているように、肌がひりついた。

 十支族の一人、アシュベル・フォン・アイゼンリヒトは、

 息を整えながらゆっくりと前に進んだ。

 彼の周りには淡い紫電が走り、門の付近にいるモンスターを見据える。

 部下の兵士たちが緊張した声で報告する。

 「異界反応、微増。小型個体、三。距離、二百。」

 「よし、通常通りに殲滅する。手加減はするな。」

 号令と同時に、雷鳴が地を裂いた。

 アシュベルの掌から放たれた稲妻が、

 前方のモンスターを一瞬で貫く。

 焦げた臭い。

 そして、いつもと違う、いや、これからはこれが普通となる感覚。

 ――身体が軽い。

 モンスターが消えた瞬間、

 まるで体内を走る雷が“整流”されたような感覚が走る。

 心拍数が安定し、視界が澄む。

 「……慣れないな。」

 アシュベルは低く呟いた。

 計測班が駆け寄る。

 「閣下、魔力出力が上昇しています!

  ……平均値の一一三パーセント!」

 「もう、これは思い違いではないんだろうな。」

 アシュベルは眉をひそめ、指先から再び雷を放つ。

 稲妻は先ほどより鋭く、音も深かった。

 「……“倒せば強くなる”ってやつか。」


 篠原が資料を手に、深く息を吐いた。

 「――門から出てくる異世界のモンスターを倒すと強化される。

  これはもう、確定事項だな。」

 隣に立つ凛が、信じられないというように眉を寄せる。

 「……モンスターを倒せば、本当に人間が強くなる?」

 篠原は短く頷いた。

 「少なくとも、今の人類は“成長する法則”の中にいる。

  それを拒める者は、もういないだろう。」

 凛は無言で窓の外を見つめた。

 外では、遠くにそびえる新宿ゲートが淡く光を放っている。

 「……世界が変わる。

  こんなこと、公表したら暴動が起きるわ……。」

 篠原は苦笑のような表情で腕を組んだ。

 「あぁ。

  誰だって求めるだろう、“力”を。

  そして、門の向こうへ渡ろうとする者も必ず出てくる。

  本当に――頭の痛い話だ。」

 電子音が静かに鳴り響く中、

 二人はしばらく黙ったまま、

 世界が変わり始めた現実をただ見つめていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ