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レオン・グレンデル転移事件の報道から一夜――。
世界のSNSは、まるで火がついたように騒がしくなった。
#レオングレンデル
#炎の英雄
#GateIncident
#ネバダの門
そのどれもが、わずか数時間でトレンドの最上位を占拠した。
タイムラインを流れる無数のコメント。
どれが真実で、どれが虚構かも分からないまま、言葉が熱を帯びて増殖していく。
「あの門、やばくね? 地獄の入り口とか言われてる」
「異世界に行ったってマジ? だったら俺も行きたい」
「政府が隠してるだけで、もう何人か行ってるらしいぞ」
「あの光、CGっぽく見えるんだけど」
数分ごとに新しい“考察動画”がアップされ、
切り抜き編集が何千件もリツイートされる。
表情だけが鮮明に映ったレオンの最後の一瞬が、GIFアニメにされて笑いのネタにされていた。
その裏で――“陰謀論”も生まれ始める。
「G.O.Dは異世界と取引してる」
「エネルギー兵器の実験だ。門はただの失敗作」
「あれは人類進化の装置。選ばれた者だけが越えられる」
真実は誰にもわからない。
だが、誰もが語りたがっていた。
誰も“知らない”ということが、何よりも人々を熱狂させていた。
世界中の街頭ビジョンが、同じ映像を映していた。
東京・渋谷スクランブル交差点。
ニューヨーク・タイムズスクエア。
ベルリン、上海、ロンドン――。
“炎の門”の光が、巨大なスクリーンを埋め尽くしていた。
どの都市でも、人々は足を止めた。
ざわめきの中に混じる、ため息と笑い声。
「見た? あの光。夢みたいだったな」
「でも怖くない? もし世界中のすべてのダンジョンにあんなのができたら……」
「いや、あれは神様の試練だって言ってたチャンネルもあるぜ」
街の空気には、恐怖よりも“好奇心”の方が強く漂っていた。
門はまだ「災害」ではなく、「奇跡」として語られている。
渋谷のスクリーンの下では、
観光客たちがスマートフォンを掲げ、映像をバックに笑顔で写真を撮っていた。
背後では、警備線の向こうで警官たちが人波を制している。
「この角度、マジで炎の中にいるみたいじゃね?」
「“炎の英雄ツアー”とか出そうだな」
売店では早くも「炎の門Tシャツ」や「レオン・グレンデル記念缶バッジ」が並び始めていた。
屋台の匂いが混じり、どこか祭りのような空気さえ流れている。
人々は、まだ信じていた。
あの門の向こうには、希望があるのだと。
有名配信者が投稿した一本の動画が、
わずか三十分で再生数三千万を超えていた。
「これが“炎の門”の現場!
封鎖されてたけど抜け道からたどり着いた!
温度ヤバいけど映える!」
画面の中では、赤黒い光が夜空を照らし、
その前で興奮気味の男が笑っている。
汗を光らせ、背景の熱波にピースサイン。
コメント欄は熱狂と好奇心で溢れていた。
> 「マジで行ったのかよ!」
> 「やっぱ現場映え半端ねぇ!」
> 「G.O.D来る前にもっと撮れ!」
> 「炎の中に何か動いたぞ!?」
警告も忠告も、数字の前では無力だった。
視聴数が伸びるたびに、誰かが“門の前”へ向かっていく。
一方で、テレビ報道は冷静を装っていた。
「――これは時空の裂け目ではなく、自然現象の可能性もあります。」
「異世界との接続? 現時点では証拠がありません。」
白衣の科学者たちが並び、
グラフと映像を交互に映し出しながら議論を続ける。
だが、視聴者のコメント欄には退屈の文字が流れていた。
> 「結局わからんのか」
> 「CGじゃないなら何なんだよ」
> 「専門家って言っても見てないんだろ?」
理屈より、映像の熱のほうが人々を惹きつけていた。
数時間後、G.O.Dは記者会見を開いた。
凛たちの本部とは別に、国際広報部が前面に立ち、
冷静な口調で声明を読み上げる。
「――門内部の安全は未確認です。
また、アメリカの門がある現場は高温かつ不安定であり、無許可で近づく行為は危険です。
今後も国際的な協力のもと、調査を継続します。」
だが、その映像すら“神秘的”として切り抜かれ、
SNSでは違う意味で拡散していた。
> 「門の後ろの光、何か映ってない?」
> 「やっぱり隠してる!」
> 「これが“異世界の光”ってやつか」
真実を伝えるための映像が、
真実を歪めるための燃料になっていた。




