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週明けのホームルーム。
担任が教卓に立ち、手元のプリントを配りながら口を開いた。
「さて――東京遠征ももう来週だぞ。気を引き締めるように。」
その一言に、教室がざわつく。
担任は咳払いをしてから、きっぱりと告げた。
瞬間、教室が爆発したみたいに騒がしくなる。
「来週!? 早すぎだろ!」
「マジかよ、準備間に合うのか!?」
「東京って、新宿ダンジョンだよな!?」
椅子を軋ませて立ち上がるやつもいれば、机を叩いて大声を上げるやつもいる。
担任は苦笑しつつも声を張った。
「東京遠征は毎年行われる新人探索者のための合同実習だ。
全国から参加者が集まり、帝都探索学園の生徒や日本探索者連盟本部の指導も受けられる。
――言っておくが、これは大チャンスだぞ」
その言葉に、教室の空気がさらに熱を帯びた。
「やべぇ、武器ちゃんと買っとかねぇと!」
「俺、鎧まだ持ってないぞ! どうすんだ!」
「配信絶対伸びるぞこれ! 全国に映るかもしれないんだろ?」
クラス全体がざわめきと興奮で満ちていく。
中心にいるやつらは「俺らでランキング上位いけるかも!」と早くも浮かれている。
俺は窓際の席で、その盛り上がりを遠巻きに見ていた。
机の下で拳を握る。
(……来週か。思ってたより早い。
帝都探索学園……天城凛……あの画面の向こうの化け物たちに、本当に会うんだ)
胸の奥がざわつく。不安と期待が入り混じって落ち着かない。
「それと、遠征に参加するには最低限の探索実績が必要だぞ。
上層を複数回経験している生徒限定だ。」
俺は心の中で胸を撫で下ろした。
武器は壊しまくったけど、探索回数自体は積んでいる。条件は満たしているはずだ。
「だが――東京のダンジョンは、地元のものとは別格だ。
上層ですらモンスターの密度も強さも段違いだ。気を抜けば大怪我につながる。」
「参加者は全員、覚悟を持って臨むことだ。」
ざわついていた生徒たちも、思わず息を呑んだ。
放課後、帰り道で俺はポケットからギルドカードを取り出し表示を見つめる。
《相原悠真》
《能力:身体能力上昇(S)》
《冒険者ランク:F》
《スキル:美肌、瞬間記憶》
「…………」
(……これで戦えるのか?)
身体能力は異常だと分かってきた。
でも、戦闘で役立つスキルは何一つない。
美肌も、瞬間記憶も、どう活かせばいいのか分からない。
それでも、脳裏に浮かぶのはあの映像。
十支族の少女――天城凛。
空間を操り、群れを薙ぎ払った姿。
(住む世界が違うなんて分かってる。
けど……近づきたいんだ。少しでも)
ギルドカードをしまい拳を握る。
見上げた空には星がいくつか瞬いていた。
そのひとつがやけに強く光って見える。
(来週の東京遠征……きっと、全部が変わる)
胸の奥に芽生えた小さな炎が、消えずに揺れ続けていた。




