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会議が終わったのは、日がすっかり傾いた頃だった。
帝都探索学園の上空を、夕陽が静かに染めていく。
あれほど騒然としていた地下指令室も、今はただ機械音だけが響いている。
会議室には悠真と凛が残っていた。
言葉を探すように、互いにしばらく黙っていた。
「……結局、みんな帰っちゃったな。」
「そうね。アシュベルも、リーメイも本国。
仕方ないわよ。どの国でも門が出てるし、十支族が動かないわけにはいかないもの。」
凛の言葉は淡々としていたが、その目にはわずかに寂しさが滲んでいた。
会議で共に戦線を張った仲間たち。
雷鳴のような笑い声も、拳を合わせた時の静けさも、
もう当分は聞けないのだと思うと、胸の奥が少しだけ空っぽになる。
「……あいつらがいないと、静かすぎて落ち着かねぇな。」
悠真が苦笑まじりに言うと、凛が小さく吹き出した。
「アシュベルの存在感、すごいから。
静かな方が、むしろ珍しいくらいよ。」
「リーメイも面倒見がよかったな。
“型のない拳”とか言って、結局毎回ぶん殴られたけど。」
「ふふ……でも、あの人はあなたを一番評価してたと思う。
“強さの形が違う”って、そんな言葉を残してたわ。」
「……あの雷野郎が言うと妙に説得力あるんだよな。」
二人の会話に、少しだけ温度が戻る。
長く続く戦闘と異常な日々の中で、
ようやく訪れた“人間らしい時間”だった。
しばらく沈黙。
凛がふと、夜空に目を向ける。
「……ノヴァからの通信、あれ以来ないわね。」
「ああ。あの時だけだ。
“対象ゼロ”とか、“転移痕”とか、わけのわからん単語だけ残して消えた。」
「ダンジョンが特別なのかしら。私達も新宿ダンジョンの調査に行かないといけないし...」
「……あなた、気にしてる?」
「そりゃまぁ、ちょっとはな。」
悠真は空を見上げて、小さく息を吐いた。
「寝てる間に魔王を倒した」――そんな話、信じろという方が無理だ。
「なんか、みんなもたまにゼロって呼んでたし、違和感がすごいよ。」
「でも、いいじゃない。ゼロ。かっこいいわよ」
「本当に物語の登場人物になった気分だ...」
遠くで、警報音がかすかに鳴った。
「……また観測波か?」
「わからない。でも……」
凛の視線が、新宿ダンジョンに向く。
校舎の向こう――夜の空に、わずかに赤い光が滲んでいた。
まるで心臓の鼓動のように、ゆっくりと脈を打ちながら。
「…新宿ダンジョンの調査、変なことが起きなければいいんだが...」




