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 轟音が響く。

 観測層の天井が崩れ、石と光の破片が雨のように降り注ぐ。

 “門”から溢れ出した異界の獣たちが、咆哮を上げて押し寄せてきた。

 光と闇の境界が揺れ、足元の地面すら安定しない。

 アシュベルが先陣を切り、雷撃を放つ。

 稲妻が蛇のように通路を這い、迫りくる群れをまとめて焼き払う。

 爆風が反響し、粉塵が空気を裂いた。

 「――凛! 今だ、結界を!」

 凛が両手を合わせ、空間を叩くように魔力を走らせた。

 透明な膜が幾重にも展開し、後方との境界を封じる。

 「閉じるわよ、全員離れて!」

 リーメイが地面に手をつく。

 「了解、地盤下げるネ!」

 足元の岩盤が低く唸り、階段状の通路が一気にせり上がる。

 崩壊した瓦礫が、まるで意思を持つように彼らの通った跡を塞いでいった。

 「悠真! もう引くわよ!」

 凛の叫びが響く。

 だが、悠真は最後尾に立ったまま動かない。

 “門”の奥――

 蠢く無数の影が、地の底から這い出ようとしていた。

 光を喰うような黒い体。

 そこから吹き出す風は、まるで別の世界の呼吸そのものだった。

 悠真は静かに息を吸い、拳を握った。

 「お前ら、向こうの世界に帰る気はなさそうだな。」

 足元の地面が軋む。

 地に刻まれた魔法陣が、悠真の足跡のように輝き始めた。

 次の瞬間――

 ドン、と空間そのものが鳴った。

 大地が裏返る。

 岩盤が空へとめくれ上がり、“門”の一部が圧縮されるように潰れていく。

 空気が悲鳴を上げ、世界が軋む。

 リーメイが振り返る。

 「ちょっと! それ、本気で壊してないネ!?」

 「……半分だけだ。」

 悠真の返答と同時に、門の中から飛び出しかけていた異形が光に呑まれ、弾き飛ばされた。

 凛の通信端末が鳴る。

 「悠真、もう十分! 早く!」

 悠真は振り返り、息を吐いた。

 「……ああ。」

 足元の破片を蹴り上げ、反動で跳ぶ。

 その体は煙のように軽く、空中を舞う。

 光と瓦礫を抜け、仲間たちのいる上層へと飛び上がった。


 ――新宿ゲート前。

 地面は震え、周囲の高層ビル群が悲鳴のように軋む。



 凛が崩れ落ちるように地に膝をつき、息を吐く。

 「……間に合った……」

 リーメイも地に手をついて、荒い呼吸を繰り返す。

 「出口、閉じ切る前に出られた……奇跡ネ。」

 アシュベルが周囲を見渡し、表情を引き締めた。

 「これで終わり、ではないだろうな。」

 その言葉に、誰も反論しなかった。

 見上げた空の中央――新宿ゲートの真上に、巨大な黒い輪が浮かんでいる。

 まるで、空間そのものに“傷”が刻まれたようだった。

 黒い輪の中心では、光が内側へ吸い込まれていく。

 カリムが低く呟く。

 「門は閉じていない。あれは……まだ息をしている。」

 風が逆巻き、髪を揺らす。

 地上に配置されたギルドの迎撃部隊が、警戒態勢をとっているのが遠くに見えた。

 サイレンが鳴り響き、通信無線の声が交錯する。

 「全隊、臨戦態勢! ダンジョン最上層に異常発生!」

 「魔力波動、上昇中! ゲート上空、異界波検知!」

 悠真は一歩前へ出た。

 空を見上げるその瞳に、恐怖はなかった。

 むしろ、静かな怒りが宿っていた。

 「……なら、次は本気で塞ぐだけだ。」

 握られた拳が微かに軋み、指先から光が漏れる。

 凛が顔を上げ、言葉を詰まらせる。

 「悠真……あなた、まさか――」

 「心配すんな。あの程度なら、まだやれる。」

 そう言って彼は、黒い空を睨んだまま立ち尽くした。

 風が止み、世界が息を潜める。

 ――その頃、異世界・観測局本部。

 薄暗い室内に、淡い青光が点滅していた。

 無数の演算機が稼働音を鳴らし、ひとつの映像がホログラムに映し出される。

 それは、地球側――新宿ゲートの上空。

 ノヴァ・ヴェルナーが椅子から身を乗り出し、静かに微笑んだ。

 「……観測完了。」

 セリスが操作端末を確認し、目を見開く。

 「主任……これ、成功です。完全なリンク形成を確認!」

 ノヴァの声が、淡々と響く。

 「これが“第一接続”か。」

 ホログラムに映る青年――相原悠真の姿を見つめながら、彼女は小さく呟いた。

 「おめでとう、相原悠真……君が、世界を繋げた。」

 直後、通信回線にノイズが走る。

 異世界と地球、二つの世界を結ぶ“門”が、ゆっくりと完全接続へと移行していった。



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