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 ――何かが、蠢いていた。

 崩落した観測層の瓦礫の隙間。

 闇の奥で、湿った呼吸のような音が響く。

 空気が低く唸り、重い足音が近づいてくる。

 アシュベルが即座に構えた。

 「……魔獣か? いや、構造が違う……!」

 リーメイが身を屈め、瞳を細める。

 「骨が外に出てる……皮膚が金属みたい……何これ……」

 凛は息を呑み、わずかに後退した。

 「……異世界側の……生物……?」

 それは“生き物”とは言えるような見た目ではなかった。

 半透明の皮膚の下で、紫色の魔力結晶が脈打っている。

 血の代わりに、光が流れていた。

 体内の構造が透け、関節の隙間から鉄のような光沢がのぞく。

 低くうなると同時に、背骨から伸びた刃が鳴いた。

 瓦礫が割れ、破片が宙を舞う。

 リーメイが咄嗟に身を翻す。

 「来る!」

 金属音。

 アシュベルの雷槍が一閃し、獣の肩口を撃ち抜く。

 しかし、黒い体液が飛び散ることはなかった。

 傷口からは、光の粒子が舞い上がる。

 「……消滅した……?」

 凛が呟いた。

 その瞬間、悠真が一歩前に出る。

 「見た目が違うだけだ。」

 短く息を吸い、拳を握った。

 「壊せばいい。」

 空気が、鳴った。

 刹那、爆ぜるような音と共に、悠真の拳が振り抜かれる。

 衝撃波が瓦礫ごと吹き抜け、前方の獣を丸ごと押し潰した。

 光の粒が雪のように舞い上がり、やがて霧のように消える。

 「……倒せる、のか。」

 グレンデルが目を細めた。

 「見たことのない種類だが……倒せるのなら話は早い!」とアーサーが応じる。

 だが、それで終わりではなかった。

 ――“門”の奥から、音が増える。

 呻き声。擦れる音。羽音。

 まるで、誰かが“この世界”の空気を試しているかのように。

 凛が息を詰めた。

 「……増えてる。」

 アシュベルが構え直す。

 「数が多い……下がるか?」

 悠真は短く首を横に振った。

 黒い渦の向こう、数え切れないほどの影が蠢く。

 ひとつ、またひとつとその輪郭が地を踏むたび、世界の境界がきしむ。

 リーメイが拳を握り、息を吐く。

 「まるで、世界が生きてるみたいネ……!」

 悠真が静かに呟く。

 「だったら、叩いて黙らせるだけだ。」

 次の瞬間、音が消えた。

 ――爆風。

 悠真の一撃が、再び異界の闇を切り裂いた。

 だが“門”の奥では、まだ無数の瞳が光を帯びていた。

 止まる気配など、欠片もない。



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